『見えないほどの遠くの空を』東京初日舞台挨拶レポート

見えないほどの遠くの空を


劇場支配人、プロデューサー、脚本家など様々な形で日本の映画界に携わってきた榎本憲男さん。監督デビュー作となる『見えないほどの遠くの空を』が6月11日、ヒューマントラストシネマ渋谷で公開となり、1回目の上映前に初日舞台挨拶が行われました。

後列左から 榎本憲男監督、岡本奈月さん、森岡龍さん
前列左から 中村無何有さん、前野朋哉さん

大学の映画研究会を舞台とし、ほろ苦く少し怪奇なラブ・ストーリーを軸としながら、とても大きな世界を描き出す本作。前評判が高く、あいにくの雨模様でしたが駆け付けたファンで客席は埋まり、出演者の森岡龍さん、岡本奈月さん、前野朋哉さん、中村無何有さん、そして榎本監督が登壇すると、温かい拍手が送られました。

まずは出演者から一言ずつ挨拶。主役の高橋賢を演じた森岡さんは、「雨の中お越しいただきありがとうございます。去年の夏に……、がんばった?映画です」といきなり本音を垣間見せるような発言を。榎本監督が横で「がんばった、がんばった」とねぎらい、場内が笑いに包まれました。

岡本さん、森岡さん

杉崎莉沙・洋子という一人二役でのヒロインを演じた岡本さんは、凛とした役のイメージとはガラリと雰囲気を変え、黒のミニ・ドレスにゴールドを効かせたアクセサリーというコーディネートがとてもフェミニン。口調もとてもおっとりしていて可愛らしく、「私もがんばりました。たくさん詰められ詰められ、テンパりながらも一生懸命やりましたので、ゆっくりご覧になってください」とまぶしい笑顔で語ると梅雨の湿気が吹き飛ぶようでした。

いい味を出していた映画研究会の後輩役のおふたりは、壇上でもやっぱりほのぼのとした空気を作ります。森本役の前野さんは「ゆっくり楽しんでいってください」と手短に。続いて山下役の中村さんが話し出そうとすると、客席から「中村〜!」の声援が飛び、突然のことにちょっと面喰いながら「土曜日の朝なのにたくさんの方に集まっていただき嬉しいです。多分森岡くんとかが面白いことを言ってくれると思うので、盛り上がっていってください」と挨拶しました。
ちなみに森岡さん、前野さん、中村さんは実際にも大学の映画研究会の所属/出身で、現在も俳優業の傍ら映画制作に関わっています。みなさんユーモラスな雰囲気を漂わせながらも落ち着いていて、同志の空気も流れるようで、ちょっと独特。これが映画にリアリティをもたらしているのだなあと思いました。

前野さん、中村さん

続いて榎本監督です。東北地方で大地震のあった3月11日からちょうど3ヵ月後が公開日となったことに触れ、「映画は当然震災のことはまったく想像しないで作りましたが、いろんな意味で日本が揺れている中、今後出てくる映画は強度が試されると思うんです。そういうものに耐えられるものになったかどうか、観て感想を教えてください」と、真摯ながらも意欲的に語られました。映画を観て、込められたメッセージを受け取った方はどんな答えを出すでしょう……?
そのあと「……というふうにちょっと真面目なことを話したから、あとはよろしくお願いします!」と出演者たちに振り、お茶目な一面も覗かせます。

榎本監督

この作品の主役は最初から森岡さんに決めていたとのこと。監督が「森岡くんありきの作品と考えていて、お願いして何とか引き受けてもらえたからよかったです」と語ると、森岡さんは「ラブコールをもらったと。今後ともよろしくお願いしまーす」とちょっと照れ気味でした。

一人二役を演じた岡本さんへの「演技は難しかったですか?」との質問から、榎本監督の独特の演出法について話題が広がり、興味深かったです。
岡本さん「台本をいただいて、これはやばいと(笑)。でも私が『どうしよう〜』となる前に、監督から『これはこうしてください』っていうのをたくさんいただいていたので、それを忠実にやりました。大変だったけど撮影に入ったら楽しかったです。準備中は結構過酷だったんですけど、森岡くんはサラッとこなしてて」
森岡さん「いやいや……。どうやって逃げようかって」
榎本監督「奈月ちゃんがいちばんセリフが全部入るのが早くてちょっと余裕を見せてて、森岡くんが焦ってるっていうふうに俺には見えたけど(笑)」
森岡さん「観たら分かりますけど、本当にセリフの多い映画なんです。一字一句間違えるなって言われて、それが仕事なんですけど、ものすごく仕事したなーって感じでしたね」
岡本さん「そうそう、動きも細かく指示が出て、セリフと一緒で間違えちゃいけないんです」
榎本監督「奈月ちゃん、あんまり俺の近くに寄りたがっていなかったもん」
岡本さん「そんなことにまで気が回らないくらい大変だったんですよ〜!」
榎本監督「冷たくされてるなーと思ってた。(お客さんに)観ていただけば分かると思うんですけど、セリフをきちんと発語することを求めた作品なんです。役者には自分なりにこなすというよりはこっちのイメージ通りに身体と声を持ってきてほしいっていうことを要求したので、ちょっと大変だったとは思います」
舞台挨拶の最初に森岡さんが「がんばった」と言った気持ちも分かるような、榎本監督の強いこだわりの見えるやり取りでした。

榎本監督、岡本さん、森岡さん

にこにこと3人の様子を見ていた後輩役のおふたり。中村さんが「森岡くんと岡本さんが本当に素晴らしい演技をしています。と言っても実は僕まだ映画は観ていないんですが(笑)、現場で泣きそうになるぐらいいい演技をしているので、これを観ていただけたらなと思います」と語り、低予算で初監督に挑んだ榎本監督の「本当に俳優・スタッフともがんばっていただいて、あまり過酷とも思わないで作ることができました」とのお言葉で舞台挨拶は締め括られました。

岡本さん、森岡さん

★and more……★
・『見えないほどの遠くの空を』公開中のヒューマントラストシネマ渋谷では、この後も平日は連日トークイベントが催されます。もちろん映画単独で観てもとても楽しめる作品ですが、映画学校講師も務める榎本監督が先生気質を発揮した大サービス企画。ゲストの顔ぶれもテーマも素晴らしく、これを映画の通常料金だけで聴けるなんてとてもオトク! ぜひお見逃しなく。
トークイベントスケジュール】
6/13(月)「学生映画の現状と次の一手」  ゲスト:森岡龍岡本奈月渡辺大知、前野朋哉(以上『見え空』映研部員)
6/14(火)「現在の若者にとっての物語のリアル」  ゲスト:韓東賢/ハン・トンヒョン(日本映画大学 社会学
6/15(水)「宗教学から観た『見え空』」  ゲスト:近藤光博(宗教学)
6/16(木)「強面の映画ファンから自主映画を語る」  ゲスト:松崎まこと(放送作家 映画検定1級保持者)
6/17(金)「映画音楽の難しさと楽しさ」  ゲスト:安田芙充央(作曲家、ピアニスト)
各日、(開演)20:30〜本編上映/22:10〜トークイベント ※20:30の回、本編上映後にトークイベントがございます。


・INTROに私が取材した榎本監督インタビューが掲載されています。映画の世界観や、初監督の舞台裏などについてもいろいろ語っていただいていますので、ぜひお読みください。
INTRO|榎本憲男 (映画監督)インタビュー:映画「見えないほどの遠くの空を」について【1/2】【2/2】

『見えないほどの遠くの空を』 2011年/日本/カラー/99分/ステレオ/HD
脚本・監督:榎本憲男
出演:森岡龍 岡本奈月 渡辺大知 橋本一郎 佐藤貴広 前野朋哉 中村無何有 桝木亜子
配給:ドゥールー、コミュニティアド 潤・010「見えないほどの遠くの空を」製作委員会
公式サイト
6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー予定

フリーペーパーVol.5を発行しました!

人レビVol.5


東日本大震災以来初めてのブログ更新です。被災された方々に、心からお見舞い申し上げます。今夜も大きな余震が立て続けにあり、原発への心配も日に日に膨れ上がり、まだまだ渦中の様相ですね。気を引き締めて収束を祈るばかりです。そしてもちろん自分にできることを考えていき、復興の力になりたいと思います。

そんな中、映画も何本か観ました。地震の前とは私自身の映画との向き合い方も変わったし、映画界にもいろいろな動きや変化がありました。映画を巡る状況は厳しくなっていくのでしょうが、より真摯に貪欲に観るようになったのを収穫と思いたいです。いろいろなことを考えさせてくれたり、心を揺さぶって活力をくれる映画を、応援して伝えていきたいと以前にも増して思います。


そしてフリーペーパーVol.5の発刊です! 特集はGW公開の超話題作『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』! エドガー・ライト監督と主演のマイケル・セラをインタビューしています。

日本のサブカルに影響を受けたコミックを原作とする『スコ・ピル』は、ゲームとリアルが溶け合う世界観が実にハイパー。こんな荒唐無稽な映画を作り上げたエドガー監督ご本人はと言うと、やっぱりハイテンションでマシンガントークが止まらない……、という感じではありましたが、映画作りにおいての完璧主義が伝わってもくるのでした。
マイケル・セラは見た目そのままな感じです。すごくおもしろくてサービス精神たっぷりだけど、質問の答えはソツなく優等生的なところも。好きな俳優なんか訊いたら名前の列挙がすごい……。
とにかくふたりともとてもピュアで情熱家のいいお兄ちゃん。一緒にいるのが本当に楽しかった。インタビューにも彼らの個性がにじみ出てるなと思いますので、ぜひ読んでほしいです。

レビューページではコメディ映画と、春という季節に合わせ“出会いと別れ”をテーマにする青春もの、各4本ずつについて語っています。
今号からライターにUK出身のアダム・サザーランドさんが加わりました! ケンブリッジ大学を卒業し、現在明学大学院で学ぶインテリ。……なのですが、イギリスにいたころマッド・カプセル・マーケッツの追っかけをしていた日本オタクということで、とても気が合いそう(笑)。『スコ・ピル』号でお迎えできたのも奇遇な気がしてます。どうぞアダムさんともども人レビをよろしくお願いします。

現在までの配布箇所は以下のとおりです。見かけたらぜひ手に取ってください。
【映画館】
シネマライズ ・シアターN渋谷 ・ル・シネマ ・ユーロスペース
ヒューマントラストシネマ渋谷 ・アップリンク ・渋谷TOEI
・ヒューマントラストシネマ有楽町 ・有楽町スバル座
シネスイッチ銀座 ・銀座シネパトス ・銀座テアトルシネマ
テアトル新宿 ・シネマート新宿
新文芸坐 ・池袋テアトルダイヤ ・シネ・リーブル池袋
ポレポレ東中野 ・ラピュタ阿佐ヶ谷 ・吉祥寺バウスシアター

【ショップ】
タワーレコード渋谷店 ・タワーレコード新宿店 ・タワーレコード池袋店
・V.REX 目白店(レンタルDVD)
・Only Free Paper(渋谷・フリーペーパー専門店)

【その他】
映画美学校 ・北千住シアター1010 ・Peace Cafe(赤羽・カフェ)
・阿佐ヶ谷ロフトA(ライヴハウス) ・吉祥寺プラネットK(ライヴハウス

『kocorono』川口潤監督×樋口泰人さんトークショー採録 〜3月5日@吉祥寺バウスシアター

hito_revi2011-03-11

大好評上映中の映画『kocorono』。3月5日にはバウスシアターでの上映前に、川口潤監督と、批評家でありレーベルboidを主宰する樋口泰人さんによるトークショーが行われました。
樋口さんと言えば爆音上映。目下もバウスシアターで6月下旬より開催される爆音映画祭の準備に余念がないご様子ですが、川口監督とのご縁も、昨年横浜で行われた爆音映画祭で『77BOADRUM』を上映したところから始まっているとのこと。15分ほどの短い時間ながら、音楽ドキュメンタリーについてのとても興味深いお話を聴くことができました。

川口潤監督、樋口泰人さん

樋口 川口さんの作品で劇場公開している映画としては、ボアダムスの『77BOADRUM』とイースタンユースの『ドッコイ生キテル街ノ中』、そして今回の『kocorono』の3本があってどれも音楽ドキュメンタリーですが、意図して音楽ドキュメンタリーを撮っているんですか? それともいろんな流れの中でこうなっているんでしょうか。
川口 あんまり意識してということではないんですけど。ボアダムスは最初から劇場でかけたいっていうのを前提として制作しました。イースタンユースの作品は、レーベルからDVD作品を作ってほしいと依頼を受けて制作したものですが、シアターN渋谷の方に「映画のつもりで作ったので見てください」とお願いをしたところ、DVDリリース記念として上映してもらえることになったんです。そのイースタンユースの作品ができる前に『kocorono』のお話をプロデューサーの方からいただいていて。結果的に音楽ドキュメンタリー的なものが多くなっているんですね。
樋口 川口さんは大学生の頃から映画が好きで、フィクションの映画の監督になりたいという欲望もあるわけですよね。その中で今の状態になったきっかけは?
川口 職業として、スペースシャワーTVの番組を作っている制作会社に入ったのですが、それとは別に学生時代の友達とフィクションの映画作りも一緒にしていまして。そのふたつが自分の人生の中では同時進行で進んでいたところがあって、それを両方とも続けているうちにこういう流れになったという感じです。
樋口 今でもお話があれば普通の劇映画を撮りたいという気持ちがあるんですか?
川口 もちろん撮ってみたいし、お話がなくても自分からアプローチしたいなとは当然思っているんですけど、やっぱり職業として音楽系の仕事をしているので、音楽系の仕事が来るという感じですよね。

樋口 ドキュメンタリーを撮っているときに、フィクションの部分が作動するときってないですか? 例えばドキュメンタリーって相手を見て、観察していくところから始まるじゃないですか。そこから自分の中でムラムラと物語ができてきて、それがだんだん作品になっていくことはあるんですか。
川口 やっぱりどうしても僕の視点で見ていくので、観察に徹したいとは思いつつも、疑問に思うことなどをインタビュー的な形で引き出しているところはあると思うんです。でもバンドに対して「もっとこういうふうにしたほうがいいんじゃないか」とか言わないようにはしていました。そういうふうに働きかけていく監督もいると思うし、それはそれで面白いと思うんですけど、僕としてはバンドの素のままを出したいというのがありました。

樋口 素のままを出すときってバンドと監督の距離感というものが大切になってくるじゃないですか。監督がこれが素だと思っても、バンドのほうはそう思っていないかもしれない。その距離感を作り出すための努力をあえてしていたりしますか?
川口 意識的に「これ以上は入っていかないようにしよう」みたいなことはあまり考えていなかったんですけど、もともと僕の性格があまり深入りしないほうだというのがあって。ブッチャーズに関して言うと、僕は半分ローディーのようなこともやらされる間柄で、そういう意味ではかなり距離は詰めていたと思うんですけど、ちょっと覚めている部分があるのかもしれないですね。

樋口 ブッチャーズを撮ることになった時点で、バンドの人たちとは知り合いだったんですか?
川口 そうですね、スペースシャワーTVで働いていた96年頃から面識があって、PVなどを一緒に作ったりもしていたし、その前からすごく好きで影響を受けたバンドのひとつだったので、撮影が決まってから時間をかけて距離を近付けていかなければならないというのはなかったですね。

樋口 割と自然な感じで入っていったということですね。
川口 そうですね。多分バンド側もそう思っていたと思います。

樋口 例えば『kocorono』ではいろんな場所を移動するじゃないですか。ここでは撮ろうとか、ここでは撮らないでおこうとかいうことは、バンドの動きに合わせてやったんですか? 川口さん自身がここで撮りたいという指定をすることもあったんでしょうか。
川口 そう言われると、あくまでもバンドはバンドの活動をしていただけで、映画のために何かしようということはなかったんですね。僕からやってほしいというのは、最後に総括と補足という意味も込めてメンバーひとりずつにインタビューをさせてもらったんですけど、それ以外はしないようにしてましたね。ツアー中に、「景色がいいからインタビューしませんか?」みたいなことはあえてしないように、なるべく我慢して。それをしてしまうと自分の中での演出が強くなってしまうという気もしたし、演出の方向性もまだはっきりと見えていなかった部分もあって、してこなかったですね。ただ移動中に自然な会話のようにはやりましたけど。

樋口 じゃあ常にカメラは回っていたと。
川口 ほぼそうですね。飽きたら撮るのをやめるというかんじでした(笑)。

樋口 最後のインタビューをどこでするかというのは、川口さんが提案をしたんですか? それともメンバーからどこがいいということを言ってきたんですか?
川口 仰々しくやりたくなかったし、あんまり撮られ慣れていない人たちでもあるので、なるべく自然に近いようにということで選びましたね。例えばベースの射守矢さんは、よく行く洋食屋さんでやってみましょうか、という感じで。ただヴォーカルの吉村さんに関しては、インタビュー自体を受けてくれないオーラがあったんですね。ツアー中とかでも僕が質問しようとしても「それに関する答えはまだない」っていう感じで。多分すごくカンのいい人なので、インタビューを受けることによって僕がコントロールするのに巻き込まれたくないということなんじゃないか思うんですけど。

樋口 最後に海辺に行くじゃないですか。あそこはどうしたんですか? たまたま海辺に行ったときに撮ったんですか?
川口 吉村さんは海が好きなんですよ。インタビューするからと言って呼び出しても来てくれないかもしれないけど、海に一緒に行きましょうよと言えば遊びに来る感覚で来てくれるだろうと思って、僕から誘いました。海でインタビューをするのではなくて、移動中の車の中で、閉じ込めてしまえばインタビューできるんじゃないかと思ったんですね。海に行ってしまったらあとは僕が振り回されると言うか、吉村さんは思うがままに動いて、それを僕が撮ってただけですね。

樋口 その結果がああいうことになっているんですね。
川口 そういう意味では常にライヴという感じでしたね。

樋口 音楽ドキュメンタリーと言ってもいろいろなスタイルがあるので一概には言えないんですけど、すごく特徴的だなと思ったのが、それぞれの私生活があまり見えないということです。例えば音楽ドキュメンタリーを撮る場合、「こういう背景からこういう音楽が生まれてきました」っていう見せ方があるんですけど、『kocorono』の場合そういうことではなく、とにかく目の前にあるものだけが連なっていくっていう。そこが特徴的だなと思いながら観ていたんですよね。
川口 でも僕の中では、例えば射守矢さんの実家に行ったりとか、メンバーのちょっとした私生活的なものも映してはいたんですけど。あとは逆に言うと、意識してズカズカと入らないようにしていて、それが僕のブッチャーズに対してのスタンスで、それで結果的にそうなってしまったということなんじゃないかと思いますけどね。

樋口 さっきおっしゃっていた、演奏以外の、例えばツアー中に車で移動しているときとか、そういうのもすべてライヴだっていうのがすごくよくフィットする映画であることは確かだなと思いました。全部がステージと言ったら変ですけど、生きていること自体も音楽やってるのと同じ地平にあるということが、映画から見えてくる感じがしました。
川口 ああ、分かりました。ほかの人にどう見えているのかは分からないんですけど、楽しんでもらえればと思います。

樋口 この映画を作る前と作った後で、元々の構想から大きく変わったことはありますか?
川口 逆に、ブッチャーズのドキュメンタリーというものをどう作ったらいいのか、分からないまま出来上がったという感じで。でもそれは自分でラインを引いて、こういう感じで見せよう、というふうには考えていなかったということなんですよね。そういうのを取っ払って、本当にライヴだけでドキュメントしてみたいっていうのと、あとはブッチャーズを型にはめ込むことはできない、現役のバンドだし、そうしたくない、っていう気持ちがすごく強かったんですね。映画だから最終的に2時間なり1時間半なりにまとめて流れを見せなければならないので、編集とかすごく苦労したんですけど、でもできたっていうこと自体は、自分の中ではひとつハードルを越えた気がしているんですね。次も同じような感じで行くかと言うとそうではないと思うんですけど、ものすごく難しいバンドをひとつ形にできたのならよかったと思います。

(そろそろこのへんで……、というところで最前列に座っていたお客さんから質問が)
 川口さんはシンゴ02のDVDも撮っていますが、作品を作るアーティストの選び方というのは、自分の好きなアーティストを直接選んでいるのでしょうか、自分の中で何かポリシーがあって決めているのでしょうか。
川口 撮影後に「これを形にして劇場上映したい」と僕のほうからから働きかけたのは『77BOADRUM』だけなんですよね。基本的に純粋に「記録しておきたい」という気持ちだけで趣味に近い形でアーティストにアプローチしていて、撮ったものを作品にしたいとかは、まあ意識はあるんだけどすぐに実現できるとは思ってなくて。シンゴ02にしてもイースタンにしてもブッチャーズにしても、そういう付き合いを僕がキャリアがない頃から続けさせてもらっていて、そうしているうちにタイミングが、どっかしらから来るんですよね。レーベルから「ツアーをやるのでドキュメンタリーを作りたいんだけど、監督してもらえませんか?」とお話が来て作るとか。作品にするっていうのはタイミングが生むということが多いですね。

樋口 サーフィンみたいなものですね。波が来たら行く、と。多分そういう距離感が、自分から特にアプローチすることもなく、現場で撮っているということに繋がっているんだと思います。「ライヴ」っていうのをキーワードに見ていくといいと思います。



★劇場情報★<北海道>
4/9(土)〜 ユナイテッド・シネマ札幌 011-207-1110 <宮城>
4/9(土)〜4/15(金) フォーラム仙台 022-728-7866<東京>
2/5(土)〜3/25(金) シアターN渋谷 03-5489-2592
2/19(土)〜3/11(金) レイトショー 吉祥寺バウスシアター 0422-22-3555 <愛知>
2/19(土)〜3/4(金) 20:10 名古屋シネマテーク 052-733-3959 <大阪>
2/26(土)〜3/11(金) レイトショー シネマート心斎橋 06-6282-0815 <広島>
3/20(日)〜 横川シネマ 082-231-1001<福岡>
4/2(土)〜4/8(金) シネ・リーブル博多駅 092-434-3691 <沖縄>
5/7(土)〜 桜坂劇場 098-860-9555


・3月23日(水)、新宿ネイキッドロフトにてトークイベント『トークナノダ』が開催されます! ブッチャーズのメンバーと川口監督のほか、谷口健さんBEYONDS)、中込智子さん(音楽ライター)、上原子友康さん(怒髪天)らが出演。残念ながらチケットは完売しています。川口監督が撮影してくれるといいですね。詳しくはコチラ

・第四回爆音映画祭は6月24日(金)より吉祥寺バウスシアターにて開催されます。ただ今上映作品のリクエストを募集中。熱いコメントとともに爆音で聴きたい映画のリクエストをお寄せ下さい。詳しくはコチラ

・INTRO掲載の川口潤監督インタビューはコチラ


kocorono 2010年 日本

監督・脚本・撮影・音響・編集:川口潤 製作:重村博文、宮路敬久

音楽・出演:bloodthirsty butchers吉村秀樹射守矢雄小松正宏田渕ひさ子)ほか

製作担当:長谷川英行、近藤順也、渡邊恭子(ナベちゃん) 制作:アイランドフィルムズ 協力:リバーラン

製作:映画「kocorono」製作委員会 配給:日本出版販売 提供:キングレコード+日本出版販売

2010年/日本/カラー/116分/ (c)2010 「kocorono」製作委員会

公式サイト

3月3日『スコット・ピルグリム』公開記念イベント@渋谷Tabera

hito_revi2011-03-06

ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』でコアなファンを持つエドガー・ライト監督が、最新作『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』のGW公開を前にして現在来日中。3月3日には渋谷のカフェTaberaで歓迎イベントが開催され、エドガー監督と主演のマイケル・セラが来場しました。

左から、水野美紀さん、エドガー・ライト監督、マイケル・セラさん、坂口博信さん
ガレージ・ロックバンドのベーシストにして無職の青年スコット・ピルグリムマイケル・セラ)が、理想の女性ラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に出会い、ひと目で恋に落ちる。だが彼女と結ばれるためには、7人の邪悪な元カレを倒さなければいけなかった!……という荒唐無稽なアクション・ラブコメである本作。日本のサブカルに多大な影響を受けたというカナダ人のブライアン・リー・オマリーのコミックを原作とし、昨年7月に世界最大級の大衆文化のコンベンションであるサンディエゴ・コミコンで上映されるとまたたく間に評判が広まるという、『第9地区』と同じパターンでのブレイクを果たしました。
その後本国での興行が振るわず、日本公開が危ぶまれていましたが、ネット上での署名活動や配給サイド及び劇場の熱意ある働きかけにより、見事公開決定! このイベントはわたなべりんたろう氏とフィリップ・クナル氏を代表とする署名活動の主催で行われたもので、公開を喜ぶ熱心なファンが詰めかけて大盛況となりました。

来日中取材予定が立て込むエドガー監督とマイケルは、イベントにも少し遅れて到着。でも登場するやテンション高いトークで会場を盛り上げてくれました。
エドガー監督は今回で3回目の来日ですが、マイケルは日本は初めて。でもさすがは若手No.1のコメディ俳優。なんと日本語も駆使して爆笑の渦を巻き起こします。「日本に来てから80%の時間はホテルの部屋で過ごしてるんだよ。もっと外を散策して、勉強中の日本語も流暢に話せるようになりたいんだけど。……ワタシハカンペ無シデ日本語ガハナシタイ!」に大拍手。

この日は応援に女優の水野美紀さんが駆け付け、ふたりが来る前には、主演を務めた園子温監督の最新作『恋の罪』の話題など、興味深いお話を披露してくれていました。エドガー監督たちにまず一言、ということで「おふたりが来るまでの間、私が繋いでいたと伝えてください」と冗談交じりに訴えると、監督はたじたじと「サンキュー」と答えるばかりでしたが、マイケルは「ボクト飲ミニイキマショウ」と日本語でナンパ! 美紀さんもこれには負けたと見えて、大笑いしながら「すごい、本当に分かって話しているんですね!」と感心していました。ほかにも通訳に向かって「ヨクイッタ!」と激励するなど、マイケルの怪しい日本語が炸裂していました。

また、エドガー監督の作品の昔からのファンである美紀さんは、マニアックな質問もいろいろ投げかけていました。『スコット・ピルグリム』には日本の双子俳優、斉藤兄弟が「カタヤナギ・ツインズ」という元カレ役で出演していますが、前2作にも双子は登場しており、何か思い入れがあるのですか?という質問には、どんな答えが返ってくるのかこちらも興味津々。でもエドガー監督もやっぱり曲者、「いや、『ツインズ』という映画が好きなんだよ。本当はダニー・デビートアーノルド・シュワルツェネッガーに出てほしかったけど、スケジュールが合わなかったのさ!」と笑いを取っていました。

ほかに興味深かったのは、マイケル・セラの日本への造詣の深さが垣間見られたこと。日本の昔の映画が大好きで、来日中にぜひ仲代達矢さんに会いたい!という大願を抱いてきたとのことでした。仲代さんは今舞台『炎の人』で忙しく、なかなか機会に恵まれないが、日本にいる間に絶対会いたいと繰り返し、エドガー監督のブログにも日本語でしたためたらしきファンレターを持つ写真がアップされていました。想いが遂げられているといいですね。
その後は『ファイナルファンタジー』の生みの親である坂口博信氏も登壇してゲームの話題に花を咲かせ、また客席からの質問を受けたりサインや握手に応えてくれたりと、短いながらもファンにとっては大満足の楽しいひとときとなりました。

ショーン・オブ・ザ・デッド』のコスプレ姿のファン

エドガー監督のサイン 「アイ・ラヴ・トーキョー!」

映画『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』は4月29日(金・祝)、渋谷のシネマライズ他にて全国順次ロードショーとなります。公開が決まったとは言え、メジャーの大作と比べると宣伝費も十分にはかけられず、強敵が揃うGWシーズンに埋もれてしまう心配もまだまだあります。インディペンデント系や、メジャーでも中規模クラスの良質な洋画をもっと日本の劇場で観られる状況にするためにも、この映画を観たいと思った人は、ぜひ署名や口コミでの応援をお願いします。
『スコット・ピルグリム』劇場公開を求める会
「人レビ」もエドガー・ライト監督とマイケル・セラのインタビューを行ってまいりました! 4月発行のフリーペーパーに掲載する予定です。興味深いお話が聴けましたので、どうぞご期待ください!


スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010)
SCOTT PILGRIM VS. THE WORLD
2011年4月29日(金・祝)シネマライズ他、全国順次ロードショー!
(C)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト

ブラッドサースティ・ブッチャーズ、吉祥寺を凱旋! 2月19日『kocorono』バウスシアター初日舞台挨拶レポート

kocoronoバウス初日舞台挨拶

先週末から吉祥寺バウスシアター、そして名古屋シネマテークで公開となり、いよいよ日本各地へのツアーに出た映画『kocorono』。バウスシアターでは初日の上映前に舞台挨拶が行われ、シアターN渋谷のときと同様、バンドのメンバーの吉村秀樹さん、射守矢雄さん、小松正宏さん、田渕ひさ子さん、そして川口潤監督が登壇しました。すでに映画への反響がたくさん寄せられ、みなさんの映画への思いもぐっと深まってきていたようでした。

左から吉村秀樹さん、射守矢雄さん、小松正宏さん、田渕ひさ子さん、川口潤監督

最初に川口監督が「吉祥寺のいせやとかバウスシアターで撮影したシーンもありますので、吉祥寺で観てもらえるのはすごく嬉しいです」とおっしゃったとおり、吉祥寺はブッチャーズにとって、実はとても縁深い街。バウスシアターは以前はライヴ会場としても使われていて、小松さんが加入してからのブッチャーズが初めて東京でライヴをやったのもバウスシアターだったそう。ということで小松さんにとっては特に思い出深い街らしく、「ブッチャーズが3人の頃、成蹊大学近くのビートカンという練習スタジオをよく使っていたんですが、こないだ吉祥寺でライヴをやったときに見に行ったらなくなっていましたね」と残念そうに語っていました。

吉祥寺の顔とも言うべき焼き鳥屋のいせやは、映画でもキモとなるシーンで2回も出てくるとおり、昔から馴染みの店のようです。「大体このへんは俺の通学路みたいなもんだね、いせやに行くまでの。ママチャリに乗って通ってたよ」との吉村さんの発言に、「通学路!いせや大学ですか?」と笑いが起こりました。

ツイッター上でも盛り上がっている『kocorono』。吉村さん自身もかなり熱心につぶやいたり観た人の感想をリツイートしたりしていますが、これについては「自分のバンドの映画ではあるんだけど、どちらかと言うと客観的に観れるので宣伝しやすい」と冷静な答えが返ってきました。ひさ子さんも「僕たちが出てますけど、川口監督の映画です」と言っていましたが、メンバー本人たちにとっても新鮮な気持ちで向き合える作品となっているのだということが分かって興味深かったです。

ツイッターなどでの感想の中で特に多いのが、射守矢さんの言葉にグッときた!というものですが、ご本人は「どの言葉のことか分からないです。大体酔っ払っているシーンが多いので、何を言ったか覚えてない……」と照れ笑いを浮かべます。そんな射守矢さんの様子を横から眺めながら、吉村さんが「帽子の毛玉がすごいね」と茶々を入れると、射守矢さんは「北の国からなんで」と素朴さをアピール(?)。「多分そこなんだよ、魅力は」と納得顔の吉村さんでした。

バウスシアターでは現在、小松さんが出演する『アブラクサスの祭』もレイトショー上映中。完全に小松祭りとなっています。ここでも吉村さんが「俺、その映画のタイトルは言えません。アブ、アブ、アブラ……クサス?覚えた!」と笑いを誘っていました。
この作品はいろいろな意味で生々しい作品となってはいますが、川口監督としては生々しさを売りにしているつもりは全然なく、むしろそこで苦労したとのこと。「僕としてはいせやで打合せとかはしてほしくなかったんですね、騒がしくて声が聴き取りづらくなってしまうから。でも結局生で行くしかないし、そういうカットを選ぶかどうかも含めていろいろ悩みましたが、やっぱりおもしろくなるようにと考えながらまとめていきました」と語っていました。

と、この日も軽妙なトークが弾んでいましたが、締めの挨拶はなかなか深い言葉が多かったです。ひさ子さんは「ハッピーエンドや大成功で終わっている映画ではなく、バンドをやっている人もそうでない方も、共感できるところがあるかもしれないです。よく観ていってください」と。川口監督は「劇場だと途中で止めたり逃げたりできないので、おなかいっぱいになるかもしれませんが、自分なりの答えを出せる映画だと思います」とおっしゃっていました。
そして最後の最後に吉村さんが言った言葉もとても印象的でした。「ハコ(=映画館)で集中力で観るべきドキュメンタリーだと思います。これがDVDとかだとどうかなというのがあって。今、リアルに体験するのがいいと思います」。
なんだかブッチャーズも映画作りや興行について興味を持って真剣に考えているんだな、ということが(僭越ですが)感じられるような舞台挨拶でした。
バンドの歴史や感情やエネルギーが凝縮されて絡み合い、すぐには消化できないかもしれませんが、とにかくこの作品を丸ごと受け止めたら何かが自分の中で生まれるはず。そしてぜひ映画館で多くの人と一緒に観て、一体感ではなく個人個人の反応の違いを肌で感じるのが、この映画らしい楽しみ方だと思います。映画館に足を運べる人は、ぜひ観に行って彼らの思いも受け取ってほしいと思います。


★劇場情報★<北海道>
4/9(土)〜 ユナイテッド・シネマ札幌 011-207-1110 <宮城>NEW!!
4/9(土)〜4/15(金)レイトショー フォーラム仙台 022-299-5555 <東京>
2/5(土)〜3/25(金) シアターN渋谷 03-5489-2592
2/19(土)〜 レイトショー 吉祥寺バウスシアター 0422-22-3555 <愛知>
2/19(土)〜3/4(金) 20:10 名古屋シネマテーク 052-733-3959 <大阪>
2/26(土)〜3/11(金) レイトショー シネマート心斎橋 06-6282-0815 <広島>NEW!!
3/20(日)〜レイトショー 横川シネマ 082-231-1001<福岡>
4/2(土)〜4/8(金)  シネ・リーブル博多駅 092-434-3691 <沖縄>
5/7(土)〜 桜坂劇場 098-860-9555


・小松さんが出演する『アブラクサスの祭』の吉祥寺バウスシアターでの上映は、2月25日(金)までとなっています。24日(木)は一夜限定の爆音上映となり、主演のスネオヘアーさんと加藤直輝監督の舞台挨拶も決定しています。詳しくはコチラ

・2月5日シアターN渋谷での初日舞台挨拶のレポートはコチラ

・INTRO掲載の川口潤監督インタビューはコチラ



kocorono 2010年 日本
監督・脚本・撮影・音響・編集:川口潤 製作:重村博文、宮路敬久
音楽・出演:bloodthirsty butchers吉村秀樹射守矢雄小松正宏田渕ひさ子)ほか
製作担当:長谷川英行、近藤順也、渡邊恭子(ナベちゃん) 制作:アイランドフィルムズ 協力:リバーラン
製作:映画「kocorono」製作委員会 配給:日本出版販売 提供:キングレコード+日本出版販売
2010年/日本/カラー/116分/ (c)2010 「kocorono」製作委員会
公式サイト

ブラッドサースティ・ブッチャーズの今を解き明かすドキュメンタリー映画『kocorono』初日舞台挨拶レポート

『kocorono』初日舞台挨拶


1987年に札幌で結成され、以来20年以上にわたって珠玉の名曲を生み出し続けるブラッドサースティ・ブッチャーズ(以下ブッチャーズ)。彼らの赤裸々な姿を『77BOADRUM』の川口潤監督が追ったドキュメンタリー映画kocorono』が、2月5日、シアターN渋谷にて初日を迎えました。公開を待ち望んでいたファンで満席となった第1回目の上映の後、フリーペーパー「ルーフトップ」編集長の椎名宗之さんの司会による舞台挨拶が行われ、バンドのメンバーの吉村秀樹さん、射守矢雄さん、小松正宏さん、田渕ひさ子さん、そして川口監督が登壇しました。
本作は、ブッチャーズが最新作の『NO ALBUM 無題』を完成させた直後の2010年2月から同年9月までの活動を追いながら、アーカイヴ映像や関係者へのインタビューを織り込み、バンドの歴史をも一望させるもの。だけど音楽へと突っ走り続ける熱い姿を期待すると、冒頭からいきなり裏切られることになる……。カネやビジネスの話で揉め、曲作りや演奏のことで対立し、むしろ音楽に打ち込むことを邪魔するいろいろなものへの彼らの苛立ちを映し出すものとなっています。
大きな驚きと様々な想いを抱きながら映画を見届けたばかりの観客の前に、本人たちが登場。全員映画の公開記念Tシャツを着込み、特に吉村さんは自分のバックショットがプリントされた本人フォトTを着てレア感たっぷりです。でもリアル過ぎる姿を映画で曝した後の、晴れがましい舞台挨拶というシチュエーションは、ライヴとは勝手が違ってかなり恥ずかしそうでした。

吉村秀樹さん

まず一言ずつ挨拶を、ということでフロントマンの吉村さんは「こんな真昼間にご苦労さまです。ありがとうございます」と観客をねぎらい、射守矢さんは、上映後なのに「初日からありがとうございます。楽しんでください」と言ってしまい、「もう終わってるよ!」とみんなから突っ込みを入れられていました。

射守矢雄さん

映画の中で多弁ぶりを披露した小松さんは「同情するならカネをくれって感じでよろしくお願いします」と笑顔で言い放って笑わせます。そしてひさ子さんはさすが紅一点、「あの、ボクたち仲良しです。お気遣いなく」と会場を和ませてくれました。

田渕ひさ子さん

川口監督は「みなさんどうもありがとうございます。ちょっと暴いちゃった感があるかもしれないんで、怒らないでください」と挨拶。さらに苦労話を問われて、「ラクだったことは何一つなくて苦労しか思い出がないです。完成できただけで僕としては満足してます」と答え、監督自身がバンドの実情に驚いたことや、どう出来上がるか先が見えないドキュメンタリー映画作りの難しさを窺わせました。

川口潤監督

メンバーはかなり映画の出来を気に入っていて、吉村さんは「よくまとめたなって感じだね」と感想を語っていました。とは言え本当にスリリングなシーンの連続なので、4人揃って試写を観たときには吉村さんはどんどん後ろへ下がっていったそうだし、ひさ子さんは「映画が終わったら何か始まるんじゃないかと心配していました」とのことでした。
映画の中で吉村さんと音楽について激論を交わす小松さんが、「編集をどこで切ってどこを使うかってことがすごく心配でした。それによって意味合いがだいぶ変わってくるじゃないですか」と語ると、吉村さんが「これでもだいぶ小松の文句はカットされてるよね」と即座に突っ込みを。川口監督も「とりあえず小松さんは、『俺、吉村さんと一緒には観れないよなあ多分……』と撮影の途中のあたりから言ってましたよね」と明かしていました。

小松正宏さん

また、映画の中でとても印象深いものとなっているのは、吉村さん、射守矢さん、小松さん3人の故郷である北海道の留萌へ射守矢さんが帰省するシーンです。吉村さんはちょっと悔しいのか、試写のときから「これはもう射守矢の映画だよ」と言っているそうなのですが。しかも射守矢さんのお母さんまで映画に登場し、高校の卒業アルバムを出してくるのですが、そこには同級生だった吉村さんのすごい写真が……。試写を観ていて卒業アルバムが出てきたときは、吉村さんは大慌てだったらしく、「お願いだから卒業アルバムだけは、開かないでくれ!開かないでくれ! ああ、開いたあ……だったもん」と焦りぶりを再現していました。ひさ子さんもこのシーンが終わってからもずっと笑いが止まらなかったそうだし、マスコミ試写でもここぞとばかり大爆笑が起こっていました。これから観る方はお楽しみに。

と、本当に恥部まで曝した映画。吉村さんは自分の裸のシーンが多いことも監督に訴え出たそうですが、「カットできないって言うんだもん。普段裸ですよって言われちゃって」と引き下がったとのこと。そしてそのほかには、作品に対してメンバーから「ここはカットしてくれ」というのはなかったそうです。カッコ悪くても、これがウソのない自分たちの生き様だ!と胸を張り、何食わぬ顔で4人並んで「こん〜なバンドですが、ひとつよろしくお願いします!」と挨拶するブッチャーズに称賛の拍手が送られました。

そして、活動中のバンドをリアルにシビアに捉えて、少なくとも日本では今まで作られたことのない、辛口・骨太な音楽ドキュメンタリーを撮り上げた川口監督の、「劇場で観てもらうということが映画のすべてです。内容には賛否両論あると思いますが、わざわざ劇場まで観に来ていただいて本当にありがとうございます。これからもいろいろ僕なりにがんばっていこうと思ってますので、ブッチャーズともどもよろしくお願いします」という映画作りへのガッツに溢れる挨拶で舞台挨拶は締め括られました。


★and more……★
シアターN渋谷のロビーでは、現在カメラマン菊池茂夫氏によるブッチャーズ写真展が開催されており、通りを見下ろす窓一面に、約100枚の写真が展示されています。映画の余韻に浸りながらじっくり眺めていくお客さんの熱気で、上映後も館内は非常にホットでした。

また、パンフレットもとても丁寧に作られています。紙質やデザインもいいし、何より表紙の写真が最高! 人相悪い4人が映画館のシートでスクリーンを睨み付けているもので、恐いんだけど芝居っ気たっぷりなんじゃん!って嬉しくなってきます。みんなが映画にノリノリで、精一杯仕事してるのが伝わってきます。

kocorono』はこのあと大阪、名古屋、福岡、沖縄、札幌と全国順次公開されます。今回のような舞台挨拶の予定はあったりなかったり……、とのことでしたが、そちらもぜひ要望を寄せつつ、楽しみにお待ちください!
INTROには私が書いた川口潤監督インタビューが掲載されています。映画の背景などについてもより詳しく知っていただけると思うので、ぜひ読んでくださいね。
INTRO|川口潤(映画監督)インタビュー:映画「kocorono」について



kocorono 2010年 日本
監督・脚本・撮影・音響・編集:川口潤 製作:重村博文、宮路敬久
音楽・出演:bloodthirsty butchers吉村秀樹射守矢雄小松正宏田渕ひさ子)ほか
製作担当:長谷川英行、近藤順也、渡邊恭子(ナベちゃん) 制作:アイランドフィルムズ 協力:リバーラン
製作:映画「kocorono」製作委員会 配給:日本出版販売 提供:キングレコード+日本出版販売
2010年/日本/カラー/116分/ (c)2010 「kocorono」製作委員会
公式サイト

松江哲明監督最新作『DV』発売&タイバンイベント『DV Fes』開催!

DV


傑作ドキュメンタリー『ライブテープ』に続いて再びミュージシャンの前野健太とタッグを組んだ松江哲明監督の新作DVDが、2月13日に発売されます。ニューヨーク、ドイツ、福岡、弘前、高円寺、渋谷……。世界中を飛び回る姿を1年以上にわたって追い、100時間以上の映像を187分にまとめ、松江監督が初めて自分の手でDVDという商品にしたものです。映画よりも生活に密着したメディアを意識して作られ、ファンにとってはたまらない愛聴盤となるはず。
撮影された2009年から2010年にかけては、音楽業界にもいろいろと劇的な変化が起こりました。音楽・ライヴ配信の普及、CDショップの閉店など……。そんな時代を切り取る場面と、ドサ回り的なぬくもりあるライヴと、対比もおもしろく躍動感ある「イマ」の断片が収められています。
劇場公開はしないとのこと。部屋で愛しんで観てください。

また、『DV』の発売を記念して、2月5日から1週間にわたり幡ヶ谷forestlimitというライヴスペースにて『DV Fes 2011』が開催されます。
50分に編集された『DV』ライブバージョンを爆音で上映し、その後GELLERS、住所不定無職、昆虫キッズ、太平洋不知火楽団など日替わりゲストミュージシャンによるライヴを行うというもの。音がメインの作品なので、ベストの音響設定がされているライブハウスという場所を選んで「体験」としての上映をし、映画館でよくあるゲストによるトークではなく、映像に対してミュージシャンによる対バンを。
常に制作だけでなく配給宣伝に関わってきた松江監督が、映画館というホームを飛び出し企てる新年の挑戦。楽しみに出かけたいと思います。


『DV Fes 2011』
会場:東京都 幡ヶ谷forestlimit
全日『DV ライブバージョン(約50分)』爆音上映vsゲスト
5(土) 昆虫キッズ×GELLERS(予約を締め切りました)
6(日) 岩井澤健治監督作『福来町、トンネル路地の男』『嘆きのアイスキャンディー』『山』×大橋裕之監督作『A・YA・KA』×岩淵弘樹撮影・編集『久下惠生ライブ2009』×住所不定無職
7(月) NRQ×池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ
8(火) 大根仁×天久聖一 両監督による『某バンドライブ映像』上映&トーク×ジョニー大蔵大臣(水中、それは苦しい
9(水) AZUMI×スカート w/pop鈴木
10(木) マキタスポーツ×太平洋不知火楽団
11(金・祝) Tenkö w/西井夕紀子,ミニースターダスト,あだち麗三郎 他 × oono yuuki


DV
TIPD-0001〜2/187分/DVD2枚組/税込3990円(税抜 3800円)
出演:前野健太DAVID BOWIEたち、おとぎ話
撮影、構成:松江哲明(「童貞。をプロデュース」「あんにょん由美香」「ライブテープ」)
整音:山本タカアキ(「SR サイタマノラッパー」「ライブテープ」)
タイトルアニメーション:岩井澤健治(「福来町、トンネル路地の男」「山」)
デザイン:長尾謙一郎+可児優+坂下志帆(連雀デザイン室)