ブラッドサースティ・ブッチャーズの今を解き明かすドキュメンタリー映画『kocorono』初日舞台挨拶レポート

『kocorono』初日舞台挨拶


1987年に札幌で結成され、以来20年以上にわたって珠玉の名曲を生み出し続けるブラッドサースティ・ブッチャーズ(以下ブッチャーズ)。彼らの赤裸々な姿を『77BOADRUM』の川口潤監督が追ったドキュメンタリー映画kocorono』が、2月5日、シアターN渋谷にて初日を迎えました。公開を待ち望んでいたファンで満席となった第1回目の上映の後、フリーペーパー「ルーフトップ」編集長の椎名宗之さんの司会による舞台挨拶が行われ、バンドのメンバーの吉村秀樹さん、射守矢雄さん、小松正宏さん、田渕ひさ子さん、そして川口監督が登壇しました。
本作は、ブッチャーズが最新作の『NO ALBUM 無題』を完成させた直後の2010年2月から同年9月までの活動を追いながら、アーカイヴ映像や関係者へのインタビューを織り込み、バンドの歴史をも一望させるもの。だけど音楽へと突っ走り続ける熱い姿を期待すると、冒頭からいきなり裏切られることになる……。カネやビジネスの話で揉め、曲作りや演奏のことで対立し、むしろ音楽に打ち込むことを邪魔するいろいろなものへの彼らの苛立ちを映し出すものとなっています。
大きな驚きと様々な想いを抱きながら映画を見届けたばかりの観客の前に、本人たちが登場。全員映画の公開記念Tシャツを着込み、特に吉村さんは自分のバックショットがプリントされた本人フォトTを着てレア感たっぷりです。でもリアル過ぎる姿を映画で曝した後の、晴れがましい舞台挨拶というシチュエーションは、ライヴとは勝手が違ってかなり恥ずかしそうでした。

吉村秀樹さん

まず一言ずつ挨拶を、ということでフロントマンの吉村さんは「こんな真昼間にご苦労さまです。ありがとうございます」と観客をねぎらい、射守矢さんは、上映後なのに「初日からありがとうございます。楽しんでください」と言ってしまい、「もう終わってるよ!」とみんなから突っ込みを入れられていました。

射守矢雄さん

映画の中で多弁ぶりを披露した小松さんは「同情するならカネをくれって感じでよろしくお願いします」と笑顔で言い放って笑わせます。そしてひさ子さんはさすが紅一点、「あの、ボクたち仲良しです。お気遣いなく」と会場を和ませてくれました。

田渕ひさ子さん

川口監督は「みなさんどうもありがとうございます。ちょっと暴いちゃった感があるかもしれないんで、怒らないでください」と挨拶。さらに苦労話を問われて、「ラクだったことは何一つなくて苦労しか思い出がないです。完成できただけで僕としては満足してます」と答え、監督自身がバンドの実情に驚いたことや、どう出来上がるか先が見えないドキュメンタリー映画作りの難しさを窺わせました。

川口潤監督

メンバーはかなり映画の出来を気に入っていて、吉村さんは「よくまとめたなって感じだね」と感想を語っていました。とは言え本当にスリリングなシーンの連続なので、4人揃って試写を観たときには吉村さんはどんどん後ろへ下がっていったそうだし、ひさ子さんは「映画が終わったら何か始まるんじゃないかと心配していました」とのことでした。
映画の中で吉村さんと音楽について激論を交わす小松さんが、「編集をどこで切ってどこを使うかってことがすごく心配でした。それによって意味合いがだいぶ変わってくるじゃないですか」と語ると、吉村さんが「これでもだいぶ小松の文句はカットされてるよね」と即座に突っ込みを。川口監督も「とりあえず小松さんは、『俺、吉村さんと一緒には観れないよなあ多分……』と撮影の途中のあたりから言ってましたよね」と明かしていました。

小松正宏さん

また、映画の中でとても印象深いものとなっているのは、吉村さん、射守矢さん、小松さん3人の故郷である北海道の留萌へ射守矢さんが帰省するシーンです。吉村さんはちょっと悔しいのか、試写のときから「これはもう射守矢の映画だよ」と言っているそうなのですが。しかも射守矢さんのお母さんまで映画に登場し、高校の卒業アルバムを出してくるのですが、そこには同級生だった吉村さんのすごい写真が……。試写を観ていて卒業アルバムが出てきたときは、吉村さんは大慌てだったらしく、「お願いだから卒業アルバムだけは、開かないでくれ!開かないでくれ! ああ、開いたあ……だったもん」と焦りぶりを再現していました。ひさ子さんもこのシーンが終わってからもずっと笑いが止まらなかったそうだし、マスコミ試写でもここぞとばかり大爆笑が起こっていました。これから観る方はお楽しみに。

と、本当に恥部まで曝した映画。吉村さんは自分の裸のシーンが多いことも監督に訴え出たそうですが、「カットできないって言うんだもん。普段裸ですよって言われちゃって」と引き下がったとのこと。そしてそのほかには、作品に対してメンバーから「ここはカットしてくれ」というのはなかったそうです。カッコ悪くても、これがウソのない自分たちの生き様だ!と胸を張り、何食わぬ顔で4人並んで「こん〜なバンドですが、ひとつよろしくお願いします!」と挨拶するブッチャーズに称賛の拍手が送られました。

そして、活動中のバンドをリアルにシビアに捉えて、少なくとも日本では今まで作られたことのない、辛口・骨太な音楽ドキュメンタリーを撮り上げた川口監督の、「劇場で観てもらうということが映画のすべてです。内容には賛否両論あると思いますが、わざわざ劇場まで観に来ていただいて本当にありがとうございます。これからもいろいろ僕なりにがんばっていこうと思ってますので、ブッチャーズともどもよろしくお願いします」という映画作りへのガッツに溢れる挨拶で舞台挨拶は締め括られました。


★and more……★
シアターN渋谷のロビーでは、現在カメラマン菊池茂夫氏によるブッチャーズ写真展が開催されており、通りを見下ろす窓一面に、約100枚の写真が展示されています。映画の余韻に浸りながらじっくり眺めていくお客さんの熱気で、上映後も館内は非常にホットでした。

また、パンフレットもとても丁寧に作られています。紙質やデザインもいいし、何より表紙の写真が最高! 人相悪い4人が映画館のシートでスクリーンを睨み付けているもので、恐いんだけど芝居っ気たっぷりなんじゃん!って嬉しくなってきます。みんなが映画にノリノリで、精一杯仕事してるのが伝わってきます。

kocorono』はこのあと大阪、名古屋、福岡、沖縄、札幌と全国順次公開されます。今回のような舞台挨拶の予定はあったりなかったり……、とのことでしたが、そちらもぜひ要望を寄せつつ、楽しみにお待ちください!
INTROには私が書いた川口潤監督インタビューが掲載されています。映画の背景などについてもより詳しく知っていただけると思うので、ぜひ読んでくださいね。
INTRO|川口潤(映画監督)インタビュー:映画「kocorono」について



kocorono 2010年 日本
監督・脚本・撮影・音響・編集:川口潤 製作:重村博文、宮路敬久
音楽・出演:bloodthirsty butchers吉村秀樹射守矢雄小松正宏田渕ひさ子)ほか
製作担当:長谷川英行、近藤順也、渡邊恭子(ナベちゃん) 制作:アイランドフィルムズ 協力:リバーラン
製作:映画「kocorono」製作委員会 配給:日本出版販売 提供:キングレコード+日本出版販売
2010年/日本/カラー/116分/ (c)2010 「kocorono」製作委員会
公式サイト