『1+1=1 1(イチタスイチハイチ イチ)』

1+1=1 1


ストロベリーショートケイクス』や『スイートリトルライズ』で端正な恋愛群像劇を綴ってきた矢崎仁司監督。その作品はとても独特な世界観を持っていた。不安や孤独や情念というドロドロした感情を、至近距離から残酷なほど生々しく映し出すのだけど、視線はとてもクールで、人間の心理を標本として差し出してくるような印象さえ抱くほどだった。でもそれが観ている人自身にたまらなく切ない感情を呼び覚まさせる。人のことは本当に理解することはできない。そして誰もがこんな烈しい想いを内に秘め生きているのだ、と想いを馳せさせるのだ。

その矢崎監督が23人の若手俳優たちとともに撮り上げた66分の中編作品『1+1=1 1』。ストーリーと言えるストーリーはない。登場人物のあるひとときずつを切り取り、誰かに感情移入する余裕も与えずに映し出すだけのシンプルな作りだけれど、これまで見せてきた矢崎作品の凝縮された姿がそこにはあった。淡々とした映画の流れに身を浸し、彼らがそれぞれの想いを抱えてうごめいているのを見ていると、自分の中にリアルな寂しさが湧いてくる。人のことは分からないし、自分のことも本当には理解してもらえない。世界の中で、私もちっぽけな点のひとつなんだ、と。そしてその愚かしい点の一粒一粒がとても愛しくてたまらなくなる。
若者たちは本当に街で見かけるようなリアルな存在として登場する。小奇麗でちょっと軽薄そうで、でも刹那的なのは苦しい世の中で今を生きていくことに必死だから。寂しい表情を浮かべながら人の温もりを希求する。そんな彼らがポツリポツリと口にする、陳腐だけれど印象的な言葉にギクリとさせられる。「どこ行く?」「ここじゃないどこか」、「人が死ぬときって、パラパラマンガ見るんだってね」。現実に絶望し、死を身近に感じながら、彼らはとても優しい。優し過ぎることをもどかしく感じるほどに。

そしてこの「死」と「優しさ」のイメージに今の時代が映される。タイトルの『1+1=1 1』は、人と人とは決して混じり合えないという寂しさと、でも一人一人がしっかり自分の足で立っているんだという強さとともに、「11」という数字の並びから地震の起こった「11日」も想起させる。あの地震は多くの人の命を奪った。そして私たちは、知り合いや見知らぬ人まで多くの人の死を悼みながら、自分の中で多くの人を蘇らせているのだという気もしている。亡くなってしまった大切な人や、記憶から忘れ去っていたかつての知り合い、命のかけがえのなさを思い知ることで、その他大勢ではなく一人一人を慈しむ術を今私たちは手にしたのだ。

タイトルとともに流れる高速スパムの「Kiss My 明日」もまた映画を観進めていくほどに意味を深める。耳には“Kiss My Ass”と聞こえ、でもとても優しく歌われる、汚いものと聖なるものが同居した歌。ヒップ近くにニーチェの言葉を刻む女性や、ベッドに手錠で繋がれながら相手を優しく見つめる風俗嬢は、決して投げやりなのではない。彼らなりに犠牲を払いながらもしなやかに生きていく決意がそこには見える。
ラストシーンでバンドマンが「世界を変えるために音楽をやってるの?」と問われて答えるその言葉に震撼した。捉えどころなく不気味な「世界」に対して彼らは本当にちっぽけだ。でもそのことを彼らははっきり自覚し、必死で闘っているのだ。等身大の若者たちの想いを見せてくれる秀作である。


【作品解説】
監督は、『三月のライオン』以降、『ストロベリーショートケイクス』や『スイートリトルライズ』など、独特な世界観をもつ作品を発表してきた矢崎仁司監督。
脚本は映画24区シナリオコースで学んだ武田知愛。撮影の石井勲と照明の大坂章夫の名コンビが作り出す“光と闇”の映像美は、矢崎映画に欠かせない空気感を映し撮る。
音楽は、矢崎が「一度自分の映画音楽に」と長年熱望していた神尾光洋ひきいる高速スパム。アルバム『UZURA DISCO』の中の「Today」や「Kiss My 明日」はこの映画と深く共鳴している。

独特の空気を纏う個性派俳優であり、『色即ぜねれいしょん』などの作品で映画監督としても知られる田口トモロヲの参加も注目。

日本映画を代表する多彩な映画監督たちとの出会いで学んだ映画24区の俳優たち。映画24区第2回製作作品『1+1=11』は、人+人で誕生しました。



『1+1=1 1(イチタスイチハイチ イチ)』 2012年/日本/66分
監督:矢崎仁司 脚本:矢崎仁司・武田知愛
出演:喜多陽子、粟島瑞丸、松林麗、気谷ゆみか、田口トモロヲ ほか
製作・配給:株式会社映画24区
Copyright 2012 映画24区 All Rights Reserved.
2012年6/23(土)〜 新宿K's cinema(東京)にて公開
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