『kocorono』川口潤監督×樋口泰人さんトークショー採録 〜3月5日@吉祥寺バウスシアター

hito_revi2011-03-11

大好評上映中の映画『kocorono』。3月5日にはバウスシアターでの上映前に、川口潤監督と、批評家でありレーベルboidを主宰する樋口泰人さんによるトークショーが行われました。
樋口さんと言えば爆音上映。目下もバウスシアターで6月下旬より開催される爆音映画祭の準備に余念がないご様子ですが、川口監督とのご縁も、昨年横浜で行われた爆音映画祭で『77BOADRUM』を上映したところから始まっているとのこと。15分ほどの短い時間ながら、音楽ドキュメンタリーについてのとても興味深いお話を聴くことができました。

川口潤監督、樋口泰人さん

樋口 川口さんの作品で劇場公開している映画としては、ボアダムスの『77BOADRUM』とイースタンユースの『ドッコイ生キテル街ノ中』、そして今回の『kocorono』の3本があってどれも音楽ドキュメンタリーですが、意図して音楽ドキュメンタリーを撮っているんですか? それともいろんな流れの中でこうなっているんでしょうか。
川口 あんまり意識してということではないんですけど。ボアダムスは最初から劇場でかけたいっていうのを前提として制作しました。イースタンユースの作品は、レーベルからDVD作品を作ってほしいと依頼を受けて制作したものですが、シアターN渋谷の方に「映画のつもりで作ったので見てください」とお願いをしたところ、DVDリリース記念として上映してもらえることになったんです。そのイースタンユースの作品ができる前に『kocorono』のお話をプロデューサーの方からいただいていて。結果的に音楽ドキュメンタリー的なものが多くなっているんですね。
樋口 川口さんは大学生の頃から映画が好きで、フィクションの映画の監督になりたいという欲望もあるわけですよね。その中で今の状態になったきっかけは?
川口 職業として、スペースシャワーTVの番組を作っている制作会社に入ったのですが、それとは別に学生時代の友達とフィクションの映画作りも一緒にしていまして。そのふたつが自分の人生の中では同時進行で進んでいたところがあって、それを両方とも続けているうちにこういう流れになったという感じです。
樋口 今でもお話があれば普通の劇映画を撮りたいという気持ちがあるんですか?
川口 もちろん撮ってみたいし、お話がなくても自分からアプローチしたいなとは当然思っているんですけど、やっぱり職業として音楽系の仕事をしているので、音楽系の仕事が来るという感じですよね。

樋口 ドキュメンタリーを撮っているときに、フィクションの部分が作動するときってないですか? 例えばドキュメンタリーって相手を見て、観察していくところから始まるじゃないですか。そこから自分の中でムラムラと物語ができてきて、それがだんだん作品になっていくことはあるんですか。
川口 やっぱりどうしても僕の視点で見ていくので、観察に徹したいとは思いつつも、疑問に思うことなどをインタビュー的な形で引き出しているところはあると思うんです。でもバンドに対して「もっとこういうふうにしたほうがいいんじゃないか」とか言わないようにはしていました。そういうふうに働きかけていく監督もいると思うし、それはそれで面白いと思うんですけど、僕としてはバンドの素のままを出したいというのがありました。

樋口 素のままを出すときってバンドと監督の距離感というものが大切になってくるじゃないですか。監督がこれが素だと思っても、バンドのほうはそう思っていないかもしれない。その距離感を作り出すための努力をあえてしていたりしますか?
川口 意識的に「これ以上は入っていかないようにしよう」みたいなことはあまり考えていなかったんですけど、もともと僕の性格があまり深入りしないほうだというのがあって。ブッチャーズに関して言うと、僕は半分ローディーのようなこともやらされる間柄で、そういう意味ではかなり距離は詰めていたと思うんですけど、ちょっと覚めている部分があるのかもしれないですね。

樋口 ブッチャーズを撮ることになった時点で、バンドの人たちとは知り合いだったんですか?
川口 そうですね、スペースシャワーTVで働いていた96年頃から面識があって、PVなどを一緒に作ったりもしていたし、その前からすごく好きで影響を受けたバンドのひとつだったので、撮影が決まってから時間をかけて距離を近付けていかなければならないというのはなかったですね。

樋口 割と自然な感じで入っていったということですね。
川口 そうですね。多分バンド側もそう思っていたと思います。

樋口 例えば『kocorono』ではいろんな場所を移動するじゃないですか。ここでは撮ろうとか、ここでは撮らないでおこうとかいうことは、バンドの動きに合わせてやったんですか? 川口さん自身がここで撮りたいという指定をすることもあったんでしょうか。
川口 そう言われると、あくまでもバンドはバンドの活動をしていただけで、映画のために何かしようということはなかったんですね。僕からやってほしいというのは、最後に総括と補足という意味も込めてメンバーひとりずつにインタビューをさせてもらったんですけど、それ以外はしないようにしてましたね。ツアー中に、「景色がいいからインタビューしませんか?」みたいなことはあえてしないように、なるべく我慢して。それをしてしまうと自分の中での演出が強くなってしまうという気もしたし、演出の方向性もまだはっきりと見えていなかった部分もあって、してこなかったですね。ただ移動中に自然な会話のようにはやりましたけど。

樋口 じゃあ常にカメラは回っていたと。
川口 ほぼそうですね。飽きたら撮るのをやめるというかんじでした(笑)。

樋口 最後のインタビューをどこでするかというのは、川口さんが提案をしたんですか? それともメンバーからどこがいいということを言ってきたんですか?
川口 仰々しくやりたくなかったし、あんまり撮られ慣れていない人たちでもあるので、なるべく自然に近いようにということで選びましたね。例えばベースの射守矢さんは、よく行く洋食屋さんでやってみましょうか、という感じで。ただヴォーカルの吉村さんに関しては、インタビュー自体を受けてくれないオーラがあったんですね。ツアー中とかでも僕が質問しようとしても「それに関する答えはまだない」っていう感じで。多分すごくカンのいい人なので、インタビューを受けることによって僕がコントロールするのに巻き込まれたくないということなんじゃないか思うんですけど。

樋口 最後に海辺に行くじゃないですか。あそこはどうしたんですか? たまたま海辺に行ったときに撮ったんですか?
川口 吉村さんは海が好きなんですよ。インタビューするからと言って呼び出しても来てくれないかもしれないけど、海に一緒に行きましょうよと言えば遊びに来る感覚で来てくれるだろうと思って、僕から誘いました。海でインタビューをするのではなくて、移動中の車の中で、閉じ込めてしまえばインタビューできるんじゃないかと思ったんですね。海に行ってしまったらあとは僕が振り回されると言うか、吉村さんは思うがままに動いて、それを僕が撮ってただけですね。

樋口 その結果がああいうことになっているんですね。
川口 そういう意味では常にライヴという感じでしたね。

樋口 音楽ドキュメンタリーと言ってもいろいろなスタイルがあるので一概には言えないんですけど、すごく特徴的だなと思ったのが、それぞれの私生活があまり見えないということです。例えば音楽ドキュメンタリーを撮る場合、「こういう背景からこういう音楽が生まれてきました」っていう見せ方があるんですけど、『kocorono』の場合そういうことではなく、とにかく目の前にあるものだけが連なっていくっていう。そこが特徴的だなと思いながら観ていたんですよね。
川口 でも僕の中では、例えば射守矢さんの実家に行ったりとか、メンバーのちょっとした私生活的なものも映してはいたんですけど。あとは逆に言うと、意識してズカズカと入らないようにしていて、それが僕のブッチャーズに対してのスタンスで、それで結果的にそうなってしまったということなんじゃないかと思いますけどね。

樋口 さっきおっしゃっていた、演奏以外の、例えばツアー中に車で移動しているときとか、そういうのもすべてライヴだっていうのがすごくよくフィットする映画であることは確かだなと思いました。全部がステージと言ったら変ですけど、生きていること自体も音楽やってるのと同じ地平にあるということが、映画から見えてくる感じがしました。
川口 ああ、分かりました。ほかの人にどう見えているのかは分からないんですけど、楽しんでもらえればと思います。

樋口 この映画を作る前と作った後で、元々の構想から大きく変わったことはありますか?
川口 逆に、ブッチャーズのドキュメンタリーというものをどう作ったらいいのか、分からないまま出来上がったという感じで。でもそれは自分でラインを引いて、こういう感じで見せよう、というふうには考えていなかったということなんですよね。そういうのを取っ払って、本当にライヴだけでドキュメントしてみたいっていうのと、あとはブッチャーズを型にはめ込むことはできない、現役のバンドだし、そうしたくない、っていう気持ちがすごく強かったんですね。映画だから最終的に2時間なり1時間半なりにまとめて流れを見せなければならないので、編集とかすごく苦労したんですけど、でもできたっていうこと自体は、自分の中ではひとつハードルを越えた気がしているんですね。次も同じような感じで行くかと言うとそうではないと思うんですけど、ものすごく難しいバンドをひとつ形にできたのならよかったと思います。

(そろそろこのへんで……、というところで最前列に座っていたお客さんから質問が)
 川口さんはシンゴ02のDVDも撮っていますが、作品を作るアーティストの選び方というのは、自分の好きなアーティストを直接選んでいるのでしょうか、自分の中で何かポリシーがあって決めているのでしょうか。
川口 撮影後に「これを形にして劇場上映したい」と僕のほうからから働きかけたのは『77BOADRUM』だけなんですよね。基本的に純粋に「記録しておきたい」という気持ちだけで趣味に近い形でアーティストにアプローチしていて、撮ったものを作品にしたいとかは、まあ意識はあるんだけどすぐに実現できるとは思ってなくて。シンゴ02にしてもイースタンにしてもブッチャーズにしても、そういう付き合いを僕がキャリアがない頃から続けさせてもらっていて、そうしているうちにタイミングが、どっかしらから来るんですよね。レーベルから「ツアーをやるのでドキュメンタリーを作りたいんだけど、監督してもらえませんか?」とお話が来て作るとか。作品にするっていうのはタイミングが生むということが多いですね。

樋口 サーフィンみたいなものですね。波が来たら行く、と。多分そういう距離感が、自分から特にアプローチすることもなく、現場で撮っているということに繋がっているんだと思います。「ライヴ」っていうのをキーワードに見ていくといいと思います。



★劇場情報★<北海道>
4/9(土)〜 ユナイテッド・シネマ札幌 011-207-1110 <宮城>
4/9(土)〜4/15(金) フォーラム仙台 022-728-7866<東京>
2/5(土)〜3/25(金) シアターN渋谷 03-5489-2592
2/19(土)〜3/11(金) レイトショー 吉祥寺バウスシアター 0422-22-3555 <愛知>
2/19(土)〜3/4(金) 20:10 名古屋シネマテーク 052-733-3959 <大阪>
2/26(土)〜3/11(金) レイトショー シネマート心斎橋 06-6282-0815 <広島>
3/20(日)〜 横川シネマ 082-231-1001<福岡>
4/2(土)〜4/8(金) シネ・リーブル博多駅 092-434-3691 <沖縄>
5/7(土)〜 桜坂劇場 098-860-9555


・3月23日(水)、新宿ネイキッドロフトにてトークイベント『トークナノダ』が開催されます! ブッチャーズのメンバーと川口監督のほか、谷口健さんBEYONDS)、中込智子さん(音楽ライター)、上原子友康さん(怒髪天)らが出演。残念ながらチケットは完売しています。川口監督が撮影してくれるといいですね。詳しくはコチラ

・第四回爆音映画祭は6月24日(金)より吉祥寺バウスシアターにて開催されます。ただ今上映作品のリクエストを募集中。熱いコメントとともに爆音で聴きたい映画のリクエストをお寄せ下さい。詳しくはコチラ

・INTRO掲載の川口潤監督インタビューはコチラ


kocorono 2010年 日本

監督・脚本・撮影・音響・編集:川口潤 製作:重村博文、宮路敬久

音楽・出演:bloodthirsty butchers吉村秀樹射守矢雄小松正宏田渕ひさ子)ほか

製作担当:長谷川英行、近藤順也、渡邊恭子(ナベちゃん) 制作:アイランドフィルムズ 協力:リバーラン

製作:映画「kocorono」製作委員会 配給:日本出版販売 提供:キングレコード+日本出版販売

2010年/日本/カラー/116分/ (c)2010 「kocorono」製作委員会

公式サイト