『見えないほどの遠くの空を』東京初日舞台挨拶レポート

見えないほどの遠くの空を


劇場支配人、プロデューサー、脚本家など様々な形で日本の映画界に携わってきた榎本憲男さん。監督デビュー作となる『見えないほどの遠くの空を』が6月11日、ヒューマントラストシネマ渋谷で公開となり、1回目の上映前に初日舞台挨拶が行われました。

後列左から 榎本憲男監督、岡本奈月さん、森岡龍さん
前列左から 中村無何有さん、前野朋哉さん

大学の映画研究会を舞台とし、ほろ苦く少し怪奇なラブ・ストーリーを軸としながら、とても大きな世界を描き出す本作。前評判が高く、あいにくの雨模様でしたが駆け付けたファンで客席は埋まり、出演者の森岡龍さん、岡本奈月さん、前野朋哉さん、中村無何有さん、そして榎本監督が登壇すると、温かい拍手が送られました。

まずは出演者から一言ずつ挨拶。主役の高橋賢を演じた森岡さんは、「雨の中お越しいただきありがとうございます。去年の夏に……、がんばった?映画です」といきなり本音を垣間見せるような発言を。榎本監督が横で「がんばった、がんばった」とねぎらい、場内が笑いに包まれました。

岡本さん、森岡さん

杉崎莉沙・洋子という一人二役でのヒロインを演じた岡本さんは、凛とした役のイメージとはガラリと雰囲気を変え、黒のミニ・ドレスにゴールドを効かせたアクセサリーというコーディネートがとてもフェミニン。口調もとてもおっとりしていて可愛らしく、「私もがんばりました。たくさん詰められ詰められ、テンパりながらも一生懸命やりましたので、ゆっくりご覧になってください」とまぶしい笑顔で語ると梅雨の湿気が吹き飛ぶようでした。

いい味を出していた映画研究会の後輩役のおふたりは、壇上でもやっぱりほのぼのとした空気を作ります。森本役の前野さんは「ゆっくり楽しんでいってください」と手短に。続いて山下役の中村さんが話し出そうとすると、客席から「中村〜!」の声援が飛び、突然のことにちょっと面喰いながら「土曜日の朝なのにたくさんの方に集まっていただき嬉しいです。多分森岡くんとかが面白いことを言ってくれると思うので、盛り上がっていってください」と挨拶しました。
ちなみに森岡さん、前野さん、中村さんは実際にも大学の映画研究会の所属/出身で、現在も俳優業の傍ら映画制作に関わっています。みなさんユーモラスな雰囲気を漂わせながらも落ち着いていて、同志の空気も流れるようで、ちょっと独特。これが映画にリアリティをもたらしているのだなあと思いました。

前野さん、中村さん

続いて榎本監督です。東北地方で大地震のあった3月11日からちょうど3ヵ月後が公開日となったことに触れ、「映画は当然震災のことはまったく想像しないで作りましたが、いろんな意味で日本が揺れている中、今後出てくる映画は強度が試されると思うんです。そういうものに耐えられるものになったかどうか、観て感想を教えてください」と、真摯ながらも意欲的に語られました。映画を観て、込められたメッセージを受け取った方はどんな答えを出すでしょう……?
そのあと「……というふうにちょっと真面目なことを話したから、あとはよろしくお願いします!」と出演者たちに振り、お茶目な一面も覗かせます。

榎本監督

この作品の主役は最初から森岡さんに決めていたとのこと。監督が「森岡くんありきの作品と考えていて、お願いして何とか引き受けてもらえたからよかったです」と語ると、森岡さんは「ラブコールをもらったと。今後ともよろしくお願いしまーす」とちょっと照れ気味でした。

一人二役を演じた岡本さんへの「演技は難しかったですか?」との質問から、榎本監督の独特の演出法について話題が広がり、興味深かったです。
岡本さん「台本をいただいて、これはやばいと(笑)。でも私が『どうしよう〜』となる前に、監督から『これはこうしてください』っていうのをたくさんいただいていたので、それを忠実にやりました。大変だったけど撮影に入ったら楽しかったです。準備中は結構過酷だったんですけど、森岡くんはサラッとこなしてて」
森岡さん「いやいや……。どうやって逃げようかって」
榎本監督「奈月ちゃんがいちばんセリフが全部入るのが早くてちょっと余裕を見せてて、森岡くんが焦ってるっていうふうに俺には見えたけど(笑)」
森岡さん「観たら分かりますけど、本当にセリフの多い映画なんです。一字一句間違えるなって言われて、それが仕事なんですけど、ものすごく仕事したなーって感じでしたね」
岡本さん「そうそう、動きも細かく指示が出て、セリフと一緒で間違えちゃいけないんです」
榎本監督「奈月ちゃん、あんまり俺の近くに寄りたがっていなかったもん」
岡本さん「そんなことにまで気が回らないくらい大変だったんですよ〜!」
榎本監督「冷たくされてるなーと思ってた。(お客さんに)観ていただけば分かると思うんですけど、セリフをきちんと発語することを求めた作品なんです。役者には自分なりにこなすというよりはこっちのイメージ通りに身体と声を持ってきてほしいっていうことを要求したので、ちょっと大変だったとは思います」
舞台挨拶の最初に森岡さんが「がんばった」と言った気持ちも分かるような、榎本監督の強いこだわりの見えるやり取りでした。

榎本監督、岡本さん、森岡さん

にこにこと3人の様子を見ていた後輩役のおふたり。中村さんが「森岡くんと岡本さんが本当に素晴らしい演技をしています。と言っても実は僕まだ映画は観ていないんですが(笑)、現場で泣きそうになるぐらいいい演技をしているので、これを観ていただけたらなと思います」と語り、低予算で初監督に挑んだ榎本監督の「本当に俳優・スタッフともがんばっていただいて、あまり過酷とも思わないで作ることができました」とのお言葉で舞台挨拶は締め括られました。

岡本さん、森岡さん

★and more……★
・『見えないほどの遠くの空を』公開中のヒューマントラストシネマ渋谷では、この後も平日は連日トークイベントが催されます。もちろん映画単独で観てもとても楽しめる作品ですが、映画学校講師も務める榎本監督が先生気質を発揮した大サービス企画。ゲストの顔ぶれもテーマも素晴らしく、これを映画の通常料金だけで聴けるなんてとてもオトク! ぜひお見逃しなく。
トークイベントスケジュール】
6/13(月)「学生映画の現状と次の一手」  ゲスト:森岡龍岡本奈月渡辺大知、前野朋哉(以上『見え空』映研部員)
6/14(火)「現在の若者にとっての物語のリアル」  ゲスト:韓東賢/ハン・トンヒョン(日本映画大学 社会学
6/15(水)「宗教学から観た『見え空』」  ゲスト:近藤光博(宗教学)
6/16(木)「強面の映画ファンから自主映画を語る」  ゲスト:松崎まこと(放送作家 映画検定1級保持者)
6/17(金)「映画音楽の難しさと楽しさ」  ゲスト:安田芙充央(作曲家、ピアニスト)
各日、(開演)20:30〜本編上映/22:10〜トークイベント ※20:30の回、本編上映後にトークイベントがございます。


・INTROに私が取材した榎本監督インタビューが掲載されています。映画の世界観や、初監督の舞台裏などについてもいろいろ語っていただいていますので、ぜひお読みください。
INTRO|榎本憲男 (映画監督)インタビュー:映画「見えないほどの遠くの空を」について【1/2】【2/2】

『見えないほどの遠くの空を』 2011年/日本/カラー/99分/ステレオ/HD
脚本・監督:榎本憲男
出演:森岡龍 岡本奈月 渡辺大知 橋本一郎 佐藤貴広 前野朋哉 中村無何有 桝木亜子
配給:ドゥールー、コミュニティアド 潤・010「見えないほどの遠くの空を」製作委員会
公式サイト
6月11日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー予定