異色キャストが多数登壇!『シンクロニシティ』初日舞台挨拶レポート

シンクロニシティ

新鋭・田中情監督の第2作目『シンクロニシティ』が6月11日、渋谷アップリンクXにて公開となり、1日3回上映のそれぞれの回にて初日舞台挨拶が行われました。主演のお二人、小林且弥さんと宮本一粋さんが登壇した1回目は残念ながら見逃してしまいましたが、脇を固めた異色キャストが登壇した2回目と3回目の舞台挨拶の模様をレポートします。

まずは田中監督が挨拶。福岡の工業高校出身、上京して職を転々としながら独学で映像の技術を身に付け、映画制作の現場の体験がないままに前作の『キリトル』を撮った異色の経歴の持ち主です。『シンクロニシティ』はミュージシャンなどプロの俳優ではない人たちをキャスティングするセンスも絶妙なのですが、そんな映画館とは縁遠い面々が登壇する舞台挨拶はレア! ということもあってか各回とも満席の盛況ぶりでした。

田中情監督

スクリーン前から場内を見渡して、「うん、入ってますね。みなさんこんにちは!」と嬉しそうな田中監督。震災を経ての公開となったことで、やはり伝えたい思いもより強いものになったよう。言葉を選ぶように舞台挨拶を始めました。
田中監督「『シンクロニシティ』は昨年の4月に撮り終え、今年の5月ぐらいに公開をしようということで劇場と話が進んでいたんですけど、3.11という世界が変わってしまうような大惨事があって。直後には映画どころではないなという考えだったんですが、『何でも今できることをやりましょう』と劇場の方とお話をして、1ヵ月遅れで公開の運びとなりました。震災があっていろいろと考え方も変わって、今ようやく冷静に事態を捉えることができるようになってきました。これからみんな震災について考えていく時期に入ると思うんですけど、『シンクロニシティ』もいろいろ考えていただける映画になっていますので、何かを持ち帰ってもらえたら嬉しいです」

田中情監督、富澤タクさん、松田百香さん

感慨深い挨拶のあと、多彩なキャストを迎え入れます。2回目の舞台挨拶には松田百香さんと、グループ魂などで活躍する富澤タクさんが登壇。まず田中監督が初日を迎えた感想を松田さんに尋ねます。
松田さん「嬉しいですね! 昨日の予報では雨だったので、寝るときに『晴れますように、晴れますように』とお祈りしてたんですけど、起きたら土砂降りで。私雨女なのでダメだったなあと思っていたんですけど、小降りになってきてよかったです」
そんな元気いっぱいの松田さん、1年前に撮影した映画の役とは髪型もファッションもかなり変わっています。映画ではとってもカジュアルですが、この日はセミロングにワンピースの可愛らしい姿で登壇し、「さすが女優!」と目を見張りました。でも会うのが久しぶりだったとは言え、監督までもが顔を見ても松田さんだと気付いてくれなかったそう。
松田さん「『お前誰?』みたいな顔されて(笑)。みなさん私がどこに出ているか探してくださいね〜!」

そんな明るい松田さんの横でちょっと落ち着かなさそうな富澤タクさん。でも監督が水を向けるとポツポツと映画のことを話し始めました。
田中監督「ステージと違ってアウェーな感じですか?」
富澤さん「あんまり居心地がいい感じじゃないですね。僕はお酒の場で監督と知り合い、1作目の『キリトル』を観て『機会があれば音楽を付けてみたい』とコメントを寄せたんです。で、今回2作目を撮るということで、音楽やらせてもらえるかなあと思っていたら、監督が音楽は付けないことにこだわりたいとのことで。まあ1作目もそうだったので『そうか』と思っていたんですけど、そんなやりとりをしているうちに『ちょっと出ませんか』ということになって(笑)」

富澤タクさん

意外な出演の経緯に客席もびっくり。また、富澤さんは福島県出身で、震災以来熱心に支援活動などもされています。そのことについても語ってくれました。
富澤さん「実家が福島で、弟が原発の近くに住んでいるような状況なので、地震があって生活の流れが変わりましたね。まあ元気でやってますけど、やはり地震の前後では感覚が変わったところがあって、風景の見え方も音楽の聴こえ方も映画の観方も変わったなと思います。『シンクロニシティ』も震災を挟んで観ることになったんですけど、そういうことがあっても悪い意味で変わることがなく、耐久性を持った作品なんだなというふうにあらためて思いましたね。……大丈夫ですか?こんな真面目な話(笑)。あとは僕は学生のときに美術系の学校で油絵をやっていたので、主人公を見て『ああ、こういう感覚あったなあ』と懐かしく思いながら観たりもしていました」
作品についての思い入れの深さを見せてくれた富澤さん。「僕は舞台挨拶をするほど出ていないんですけど(笑)」とも言っていましたが、なかなかの怪演なのです。お見逃しなく!


次の3回目の舞台挨拶には、星野あかりさん、潟山セイキさん、百々和宏さんが登壇。

星野あかりさん、潟山セイキさん、百々和宏さん

まずは映画の中で見事な肢体を披露した星野あかりさん。実物の輝く美貌に目を奪われましたが、お話を始めるととっても女性らしく、そしてアーティスティックで芯がしっかりしている方なのに惚れ惚れ。
星野さん「私は美術教師の役で登場しています。実際プライヴェートでも絵を描いていて、映画の面接のときに監督から『星野さん、絵を描きますね』と言われて」
田中監督「プロフィールに書いてあったんですよね、“趣味:絵画”って」
星野さん「そこをしっかり見てくださったんだなと、採用していただけたのがすごく嬉しくて。前作の『キリトル』を観たときも非常に感動したのですが、この作品を観終わったときにも感じるものがいろいろあって、それが何かって言うと正直まだ分からない。まるで哲学のように自問自答しているかに思える作品です。主役のお二人にはお芝居というよりも人間性のような心と身体に沁みわたるものを見せていただきました。人の醜さとか温かさ、心の深さとかいろんなものを感じると思います。それを皆さんに今日体感していただけたらと思います」

星野あかりさん

潟山セイキさんは、舞台挨拶の登壇者の名前を見て、キャストにいたっけ?と思ってしまった人。それもそのはず、声だけの出演なのです。とても落ち着いたトーンでの話しぶりを聴いてキャスティングにも納得でしたが、素敵な方なのでちょっともったいないなとも。
潟山さん「いくつかの資料の中から僕の声を気に入っていただいて、今回は留守番電話の声だけの出演でしたが、次回作では姿形も出てくると思います(笑)。……この映画を観た後で考えたんですけど、面白い映画っていうのは、おカネがかかっているとかアクションだとか3Dだとか感動できるとか、いろいろあると思うんですよ。でも心に残る映画って何だろうと。そういうのが自分にとってのいちばん面白い映画なんじゃないのかな。この映画はまさにそんな映画なんです。莫大なおカネをかけているわけではないし、3Dも当然出てこない。でも先ほど星野さんもおっしゃったように、終わった後『ん?』と考える。心に残る映画だったなというのが正直な感想です。楽しんでください」
痺れる発言が続く中、映画でも存在感を光らせるモーサム・トーンベンダーの百々和宏さんが舞台挨拶の最後を飾ります。
百々さん「普段僕は音楽を生業にしておりますので、俳優業なんてやる予定はなかったんですけど、情監督からオファーをいただきまして。まあ会って顔を見てから決めようと軽い気持ちで会ってみたんですけど、なんかミステリアスな感じなんですよね。何考えてるかよく分からない。で、『ちょっと面白いかもな』と思って、ちょうどタイミングもよかったので出させていただきますということで。台本をもらって、『セリフあるやんか』と驚いて。でも監督の言うとおりにしておけば、演技下手くそとか言われても監督のせいにできると思っていたら、監督があまり演技の要求をしないんですよね。『普段通りの感じでやってくれ』とか言われて、カメラが回ってるわスタッフがいるわ、っていうところでできるわけがないだろう!と。そんな中でやってみました」

百々和宏さん

や〜、こんなロックンローラーにそうそう型にはまった演技なんて付けられないよなぁ、と思いながら聞いとりました。田中監督は「今回出演者はみんなリハーサルやっているんですけど、その中で百々さんがいちばん心配でしたね(笑)」と。
百々さん「いやいや本当にヤバかったですね。でも映画の方はいいですよ。なんか、クールでドライで、ドライで渇き切っているのに、なんだろう?このドロドロした感じ。俺はそんなに映画好きとも言えないんですけど、あとにしこりが残るぐらいの映画の方が面白いなと思っていて、まさにそんな映画だなあと。と思っていたところ、ちょっと謎が解けた瞬間がありまして。情監督と撮影が終わった後飲みに行ったんですが、酔っ払った監督を見て、ああドロドロしてるなあ、と。……まあ早い話が酷い酔い方をするんですよ(笑)。ああ、いろいろ隠してるものがあるんだなあと。そういうところが出てると思いますんで、みなさん楽しんでください」

田中情監督、星野あかりさん、潟山セイキさん、百々和宏さん

短いながらもキャストそれぞれの『シンクロニシティ』観が繰り広げられた初日舞台挨拶でした。みなさん本当に真剣に映画に取り組んだことが伝わってきて、田中監督はキャラクターだとか話題性だとかでキャストを選んでいるのではなく、彼らの魂の美しさを買って連れてきたんだなと感じたのでした。
本当に心に残る作品になっていますし、感じ方は人それぞれだなともみなさんのお話を聴いて実感しました。ぜひ観てほしいし、観た後は誰かと話し合ってほしいなと思います。


★and more……★
・『シンクロニシティ』上映後トークライヴが下記スケジュールで開催されます。全て、19時の回終了後に行います。
トークライブ時は短編『蝶と女と鴉と男』は上映は行いません。御了承ください。
6/13(月) 金子遊(映像作家)×田中情
6/15(水) 叶井俊太郎(プロデューサー)×田中情
6/17(金) 狗飼恭子(作家)×田中情
6/20(月) 諸江亮(映画監督)×田中情 ※本編上映前に諸江亮監督作品『tsumu-gi』特別上映あり。
6/22(水) タナカカツキ(マンガ家)×田中情
6/24(金) 百々和宏(ミュージシャン/MO'SOME TONEBENDER)×金子英史(トーキョーマガジン編集長)×田中情
6/27(月) 倉田真由美(漫画家)×田中情
6/29(水) 富澤タク(グループ魂 a.k.a 遅刻,Number the.)×田中情
6/30(木) 松江哲明(映画監督)×田中情
7/1(金) 宮本一粋(アーティスト)×田中情


・サラヴァ東京にて行われる「新世代監督・傑作短編上映イベント」に田中監督も参加。『蝶と女と鴉と男』が上映されます。
6/23(木) 19:00開場 19:30開演 23:00終了予定
前売・当日 1800円(+1drink order)
話題の映画監督たちの短編作品を一挙上映。全監督出演のトークイベントもあり。サラヴァ東京ならではの異色の顔合わせが実現!
出演監督: 前田弘二(「婚前特急」),卜部敦史(「scope」),田中情(「シンクロニシティ」),ドキドキクラブ(元マッドシティー),佐々木誠(「Fragment」)


・INTROに私が取材した田中監督インタビューが掲載されています。異色の経歴や『シンクロニシティ』のテーマ、映画作りに対するの率直な想いも語っていただきました。ぜひお読みください。
INTRO|田中情 (映画監督)インタビュー:映画『シンクロニシティ』について【1/2】【2/2】



シンクロニシティ』 2011年/日本/カラー/99分/ステレオ/HD
企画・製作・監督・脚本・編集・監督:田中情
出演:小林且弥 宮本一粋 百々和宏 田渕ひさ子 富澤タク りりィ 高木三四郎 星野あかり 橋本一郎 松田百香
公式サイト
2011年6月11日(土)より渋谷UPLINK Xにてロードショー