『アジアの純真』初日舞台挨拶レポート

hito_revi2011-10-18


極東の片隅で出会った在日朝鮮人の少女と日本人の少年が、クソみたいな世の中を変えるため、毒ガスを手に旅に出る……。アートで尖った青春映画の意欲作であるにも関わらず、民族という難しい問題を扱ったため2年以上も公開の目処が立たなかった『アジアの純真』が、10月15日に新宿K's cinemaでついに公開されました。初日舞台挨拶には主演の韓英恵さんと笠井しげさん、脚本の井上淳一さん、そして片嶋一貴監督が登壇し、短い時間ながらも作品や映画界に対して熱い思いをぶつけてくださいました。


左から 井上淳一さん、笠井しげさん、韓英恵さん、片嶋一貴監督

この日はあいにくの雨でしたが、話題作ということで満席となる盛況ぶり。韓さんは足を運んでくれたお客さんにお礼を言い、「この作品に出演したことで心境など何か変わりましたか?」という質問に答えました。

韓さん「自分自身にまっすぐに向き合うことができました。自分はハーフで22歳に国籍を決めなくちゃいけないんですが、まだ決めていないんです。昔からの人間関係とかにもうまくいかないところがあって逃げてきたんですけれども、この作品に出会って自分にまっすぐ向き合えるようになりました」


韓英恵さん

ボルドーのフェミニンなワンピースがとても似合っていた韓さん。そのお隣の笠井さんもジャケットをラフに着こなし爽やかなイケメンぶりでした。映画では内向的な高校生役を演じた笠井さんに、「2009年に撮影されてから2年半を経て公開されることについて、どのように考えていますか?」との質問が。

笠井さん「待ちに待っていたので『やっと来たな』と思いますね。観直してみると顔だとかお芝居だとかが全然違っていて、みなさんはこの後観ると思うんですけど、別人ですよね(笑)。そこを楽しんでもらえるといいかなと思います。よろしくお願いします!」


笠井しげさん

この作品は公開には時間がかかりましたが、海外の数々の映画祭に出品され、特にパリシネマ映画祭やロッテルダム国際映画祭などヨーロッパで高評価を受けていました。何ヵ所か行っている脚本の井上さんが、映画祭での反響について語りました。

井上さん「多くの国内映画祭と映画館に断られてきたので、外国に行ってどういう評判なんだろうと思っていました。ただ、賛否両論と言われますけど、ティーチインが上映後にある場合、向こうの人はダメな場合は参加せず出てしまうので、残った人の意見は大変好意的でした。ロッテルダムでの上映後、おばさんが近寄ってきて「ビューティフル・フィルムだった!」と言ってくれたのが一番印象に残っています。ちょっと感動しましたね。だから帰ってきて、まさかネットで賛否両論と言うか否だけが起こっているとは思わなかったので、それに驚いた次第です」


井上淳一さん

そんな井上さんの言葉を受けて、「なんで○○映画祭はこの映画を断ったんじゃい!」と語調を荒げる片嶋監督。窮屈な日本の映画界に思うところがあり、ご自身が代表を務める映像制作会社の自主製作映画としてこの作品を撮ったそうです。

片嶋監督「大きな映画は当然お金がかかるものだし、この手の小さい規模でこういう内容のものはなかなかできにくいと思うんですが、あまりにも同じようなモノばかりできると面白くないんで、ドッグシュガーの中で“ドッグシュガー・アヴァンギャルド”というレーベルを作ろうみたいな話になりまして。自分たちのお金で自分たちのやりたいものを作り、配給まで自分たちでやろうというプロジェクトなんですけど、その第1弾としてこの作品を作りました。今度若松(孝二)さんに来ていただいて“自分の金で映画を作れ!”っていうテーマでトークショーをやるんですけど、師匠筋の若松さんがやってきたことがすごく参考になり、やってよかったと思いました。日本映画にとって一番大事なものは多様性なので、いろんな映画を作れる環境、そして観れる環境がちゃんとできていったらいいなと思います」


片嶋一貴監督

最後に韓さんが作品への思いを語ってくれました。

韓さん「この映画はネットで書かれているように反日映画とかではなくて、私は青春映画として、ロード・ムーヴィーとして観ています。しげがさっき言ったように、2年前のピュアで穢れがなかった大人じゃない自分のすべてをここに刻みました。十代最後の思い出の映画として、最後が『アジアの純真』で本当によかったなと思っています」

「今は穢れてるってこと?」と途中で笠井さんに突っ込まれて「そんなことはないんですけど!」と苦笑いする場面もありましたが、スクリーンの中で走り、叫び、睨み付ける野性的な美しさは、多分この世代特有のものだという気が大いにします。キャストもスタッフも渾身の力を込めた力作、ぜひ多くの人に観ていただきたいと思います。

笠井さん、韓さん


★and more……★
・K's cinema公開中は連日トークショーが予定されています。現在決まっているスケジュールは次のとおりです。豪華なのでお見逃しなく!
10月15日(土) 17時からの回上映前/21時10分からの回上映前 初日舞台挨拶:韓英恵、笠井しげ、井上淳一(脚本)、片嶋一貴監督
10月16日(日) 21時10分からの回上映後 荒井晴彦(脚本家)×寺脇研(映画評論家)  トークテーマ:「映画芸術」出張版!
10月17日(月) 21時10分からの回上映後 足立正生(映画監督)×雨宮処凛(作家・社会運動家  トークテーマ:政治と青春
10月18日(火) 21時10分からの回上映後 若松孝二(映画監督)×片嶋一貴監督×井上淳一  トークテーマ:中高年の為のインディペンデント映画講座〜自分の金で映画を作れ!〜
10月19日(水) 21時10分からの回上映後 内田春菊(漫画家)×韓英恵   トークテーマ:闘わない男、闘う女
10月20日(木) 21時10分からの回上映後 蜷川実花初監督作品「Cheap Trip」(韓英恵主演)劇場初公開!
10月21日(金) 21時10分からの回上映後 瀬々敬久(映画監督)×鍋島淳裕(カメラマン)×片嶋一貴監督  トークテーマ:商業映画とインデペンデント映画
10月22日(土) 上映後 PANTA(ミュージシャン)×白井良明(ミュージシャン)×片嶋一貴監督   トークテーマ:音楽や映画におけるパンク精神
10月23日(日)〜24(月) 上映後 蜷川実花初監督作品「Cheap Trip」(韓英恵主演)劇場初公開!
10月25日(火) 上映後 青山真治(映画監督)×片嶋一貴監督×井上淳一  トークテーマ:海外映画祭で日本映画はどう観られているか
10月26日(水) 上映後 韓英恵×笠井しげ   トークテーマ:メイキング・オブ PURE ASIA「寒くて辛くて大変でした」
10月27日(木) 上映後 黒田耕平×丸尾丸一郎×川田希×澤純子   トークテーマ:メイキング・オブ PURE ASIA 「撮影秘話全部しゃべっちゃいますっ!」
10月28日(金) 上映前 韓英恵、笠井しげ、井上淳一片嶋一貴監督による舞台挨拶


・私が取材した韓英恵さんインタビュー記事がINTROにアップされています。この作品に出会って、それまでスルーしてきた自らのルーツに向き合い、18年間の人生を刻み付けたという作品への思いを語っていただきました。ぜひお読みください。
INTRO|韓英恵インタビュー:映画「アジアの純真」について【1/3】【2/3】【3/3】


アジアの純真』 2009年/35mm/108分/白黒
10月15日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー!
11月5日よりシネマスコーレ(名古屋)
11月中旬より第七藝術劇場(大阪) 他、全国順次公開!
出演:韓 英 恵,笠井しげ,黒田耕平,丸尾丸一郎,川田 希,澤 純子,パク・ソヒ,白井良明ムーンライダース),若松孝二
エグゼクティブプロデューサー:小曽根太,石川始 プロデューサー:木滝和幸,門馬直人 ラインプロデューサー:安藤光造
撮影:鍋島淳裕 照明:堀口 健 録音:臼井 勝 美術:佐々木記貴 音楽:ken sato
編集:福田浩平 VFX:柳 隆 助監督:茶谷和行 スケジューラー:江良 圭
配給:ドッグシュガームービーズ 企画・制作プロダクション:ドッグシュガー
製作:ドッグシュガー,ロード・トゥ・シャングリラ,HIP
脚本:井上淳一 監督:片嶋一貴 (C)2009 PURE ASIAN PROJECT
公式サイト