本日開幕!第23回東京国際映画祭 〜コンペティション部門先取りレビュー〜

第23回東京国際映画祭ポスター


今日10月23日(土)にいよいよ開幕となる第23回東京国際映画祭六本木ヒルズをメイン会場に世界各国から数多くの映画人が集結し、選りすぐりの映画200本が上映される。
映画祭の花形企画と言えばコンペティション。832本の応募作から選び抜かれた15本が、東京サクラグランプリの栄冠を賭けてしのぎを削る! 昨年満場一致で選ばれたブルガリア映画の『ソフィアの夜明け』(映画祭での上映タイトルは『イースタン・プレイ』)に並ぶ傑作は現れるのだろうか。審査委員長を務めるのは『クライング・ゲーム』、『プルートで朝食を』のニール・ジョーダン監督。個性派の巨匠がどんな作品を選ぶのか、楽しみだ。

 コンペ作品3本を試写で観られたので、紹介していこう。


そして、地に平和を』は、映画批評家として活動したのち、短編映画で監督としての経験を積み上げてきたマッテオ・ボトルーニョとダニエレ・コルッチーニの長編デビュー作。ローマ郊外に住む若者たちの、貧困と暴力とドラッグとにまみれたどん詰まりの生活と、その鬱屈がついに溢れてもたらされる悲劇とを描く群像劇だ。
ベンチに座ってクスリを売る、寡黙な傍観者・マルコの佇まいが光っているが、もう一方の主人公であるチンピラ3人組も、その共通点のなさが異様で際立つ。黒人・白人入り混じり、ルックスも体型も、性格も暮らしぶりも、まったくバラバラ。退屈さだけでツルんでいるようなだらしのないチームだが、それだけにリアルで、愚かな行動にも悲哀を感じる。殺風景な街の景色に荘厳なヴィヴァルディの音楽と火のイメージが禍々しく、乾いた青春映画にとどまらない厚みがあるのがイタリアらしいなと。



サラの鍵』はベストセラーの映画化だ。今年のコンペティションには、ほかにも『ブライトン・ロック』や『わたしを離さないで』、『海炭市叙景』など原作ものが多く、例年よりもとっつきやすいラインナップになっているとも言えるのだ。中でもホロコーストという歴史的事件を描いた本作は、多くの人にとって興味深いものなのではないだろうか。
1942年、パリでもユダヤ人の一斉検挙が行われ、少女サラも父母と一緒に自転車競技ヴェルディヴに連行された。すぐに帰れるものと思って弟を納屋に隠し、外から鍵をかけて出てきてしまったサラは、彼を救うため必死で逃亡を図るが……。
この警察主導の一斉検挙事件は、フランス人でさえ知らない人が多い封印された歴史であった。60年後、パリの雑誌社で働くアメリカ人ジャーナリストのジュリアは、事件について取材するうちに、個人的にサラたち一家に関わりを持っていたことを知るのだ。
キャタピラー』、『十三人の刺客』という最近の傑作日本映画は、戦争は現代に生きる人にも生々しく繋がっているということを教えてくれたものだが、この作品も、過去と現代を行き来しながら戦争の傷跡の身近さを描き、胸を打つ1本だ。



ゼフィール』は、トルコの女性新人監督の作品。緑の美しいトルコの山岳地帯を舞台に、思春期の少女の狂おしいほどの母親への慕情と、母を繋ぎとめるための必死かつ丹念な行為を透明感溢れる映像で描く。赤い木の実、黄色い花、盛られたキノコ、動物の死骸……、自然の中にありふれたものがとても鮮烈に映し出され、その美しさに不吉な予感がかき立てられる。詩情溢れる恐るべき子供の物語で、とてもおもしろく観た。
トルコ映画がこのところ躍進目覚ましいが、この作品の時の止まったような山の中の静謐な暮らしと、母親のとても進歩的な女性像は、また別のトルコの一面を見せてくれる新鮮なものだった。
 
と、観たものだけでも本当に粒揃い。コンペ以外でも、「WORLD CINEMA」や「アジアの風」部門にも世界中のイマの姿を見せてくれる作品が並んでいるし、一足先に話題作が観られる「特別招待作品」にもデヴィッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』はじめ、大作が並んでお祭り気分を盛り上げる。
本日15時からは豪華ゲストがグリーンカーペットに登場するオープニング・イベントも。
映画ファンにはたまらない9日間。ぜひ六本木に足を運んでお気に入りの1本に出会ってほしい!

第23回東京国際映画祭
2010年10月23日(土)〜10月31日(日)
メイン会場:六本木ヒルズ(港区)
公式サイト