塚本晋也監督作『KOTOKO』初日舞台挨拶レポート

塚本晋也監督

鬼才・塚本晋也監督が、敬愛してやまないアーティストのCoccoを主演に作り上げた『KOTOKO』。暴力に満ちた世界で幼い我が子を育てる母親の恐怖と苦悶を、Coccoはときに儚げに、ときに荒れ狂い、全身全霊を込めて演じて、初お披露目となった昨年9月の第68回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリを受賞するなど高い評価を浴びていた作品です。塚本監督の映画作りにおいても、Coccoと寄り添い、自身のごくパーソナルな部分も露わにしていて、これまでにない繊細さと生々しさが感じられる新境地。話題が沸騰する中、満を持して4月7日に日本でも公開初日を迎え、塚本監督はテアトル新宿での上映全5回にて舞台挨拶を敢行。作品への思いを語ってくださいました。


塚本晋也監督

塚本監督 「やっと初日を迎えられて感無量です。いつもよりも緊張しています。いつもはスタッフと自分とで一生懸命やっているんですが、今回はCoccoさんが関わってくれて全霊でやってくださったので、いつもとは違う緊張感です。今日はどうもありがとうございました」

記念すべき初回に足を運んでくれたお客さんへのお礼の後、ベネチア国際映画祭で得た感触と、海外と日本での反応の違いなど、興味深いお話をされました。

塚本監督 「グランプリを獲ったオリゾンティ部門というのは、メインのコンペが王道だとすると、横道でしょうか(笑)。潮流に逆らうと言うか、革新的な作品が上映される部門ですね。昔からいつも僕の映画は逆流部門の常連ですので、今回グランプリが獲れて本当によかったです。スタンディング・オベーションも本当にあたたかく、どうしていいのか分からなくなるぐらい長くて、劇場の方が『次の映画があるのでお開きにしてください』と僕に言いに来るほどでした。映画祭での反応で映画のその後の運命が決まったりするところがあるので、拍手を聞いたときにはすごくよかったなあと思いました。日本では、(一般の観客向けに行われた)先行上映会での反応はあたたかいなという感じだったんですけど、それ以外の試写会などでは茫然として青ざめて帰っていく方が多くて、『これは日本では失敗したかな……?』と思いましたね。でもちょっと待ってという感じがあって、数日してから素晴らしい意見が聴けたりするんです。すぐに言葉にならないというのが多かったようですね」

海外に熱狂的なファンを多く持つ塚本監督。日本ではこの『KOTOKO』で初めて塚本作品に触れ、衝撃を受ける人も多いのかもしれません。でも素直な反応も多く、上映中にしばしば笑いも起こるとのこと。

塚本監督 「ギャグは多いですからね。キートンチャップリンの時代から変わらない、古典的な、ただ転ぶとか(笑)。ただ転んでお客さんが笑うと僕も嬉しいっていう(笑)」

でもその後にはドキッとするショッキングなシーンがあったりするのです。

塚本監督 「笑いといちばん恐ろしいことがいつも紙一重のところにあるということですね」

日常に潜む異常を描く塚本ワールドは本作でも炸裂しています。そして話題は気になるCoccoとの関係へ。2004年の『ヴィタール』に楽曲を提供してもらうことから、Coccoとの映画でのコラボレーションが始まります。


塚本監督 「僕はCoccoさんの世界が大好きだったので、『ヴィタール』のときにそれをイメージしてシナリオを書いて、Coccoさんは活動を休止していた時期だったんですけど読んでいただきたいと思って送ったら、突然歌を送ってくださったんです。とても感動して、それを旗印にして映画を作ってエンディング・ソングにさせていただいたのが最初です。Coccoさんはデビューの頃から好きで、『BULLET BALLET/バレット・バレエ』(98)という映画ではCoccoさんを念頭に置いて主人公の少女を描いていたようなところがありました。そして2010年に配信用の作品として作った『Inspired Movies』をCoccoさんが喜んでくださって、『KOTOKO』を撮るチャンスを与えていただけました。『KOTOKO』を作るにあたってはCoccoさんへのインタビューから脚本作りを始めました。何でも言ってくださいと。それをやっているうちに自分のテーマとかストーリーが固まっていくんですけど、最初は無のところから、Coccoさんから話を浴びるように聞き、だんだん物語ができていったという感じですね」

最後になぜ今Coccoと、「今」の時代を見据えたようなこの映画を撮ったのか、ということについて語ってくださいました。

塚本監督 「ずっとCoccoさんを撮りたいというのもあったし、『Inspired Movies』で巡り合って、今ならできるということだったんですけど、その『今』というのがちょうど今このときの『今』ではなければできないというものになったんです。そのときの自分の状況とCoccoさんの状況がうまく合わさり、それからとても恐ろしいことですけど震災が起こってしまって、そういういろんなことが全部映画のエッセンスとなっています。脚本を書いたのは震災の前なんですけど、戦争状態がある日突然来るという危機感がいつもあったので、そうすると戦争に行くのは自分の子供たちの世代ですから、その恐怖があって。それは実はCoccoさんのお話を聞きながら浮かんだ自分のテーマだったのですが、震災があったことで、周りのお母さんたちが子供を守ろうとする姿にとても鬼気迫るものを感じて、これがCoccoさん演じる琴子ととても重なって見えたので実感を込めて作れましたし、また、今作る必要が絶対あるなと思いました。一瞬の中でできた映画なんですけど、出来上がった感触は、自分の映画の中でも普遍性のある映画になったと思っています。また、Coccoさんの強い後押しもありました。Coccoさんは震災の後に折り鶴を自分のお部屋で作り続けていたんですけど、それを映画に取り入れ、スタッフもみんなCoccoさんに習って作りました。折り鶴はまさにCoccoさんの祈りのシンボルなのです』

こうして塚本監督のとても穏やかなお人柄が感じられるアット・ホームな舞台挨拶は終了しました。この日は上映の合間にもロビーの片隅に立ち、映画で壮絶な体験をしてきたばかりのお客さんとのコミュニケーションを楽しんでいたのだそう。“鬼才監督”の怖いイメージはなく、映画に注ぐ愛情の深さをただただ感じました。


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4月7日(土)〜4月15日(日) ※4月10日(火)は休み
ギャラリーアイリヤード 渋谷区神宮前4-25-7-301
入場無料

・私が取材した塚本晋也監督インタビューがINTROにアップされています。この舞台挨拶でも語られていたCoccoとの関係などについて、より詳しくお伺いしています。実は監督にとって『KOTOKO』での取材第1号だったとのこと。ぜひお読みください。
INTRO|塚本晋也監督インタビュー:映画「KOTOKO」について【1/3】【2/3】【3/3】

KOTOKO  2011年/日本/カラー/DCP/FullHD/5.1ch/91分/PG12
監督:塚本晋也 脚本:塚本晋也 原案:Cocco 音楽:Cocco 出演:Cocco塚本晋也
製作:海獣シアター 配給:マコトヤ  ©2011 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
公式サイト