「SPOTTED701/VOL.18」発売中!

hito_revi2011-11-08


映画や音楽などインディーズ・カルチャー情報を満載した不定ミニコミ誌の「SPOTTED701」(発行・スポッテッドプロダクションズ)最新号が発売中です。今回はPDF版にての配本。ボリュームはそのままで雑誌が700円だったところ250円と、とてもお得になっています!

取り上げられているのは、『SR サイタマノラッパー3 ロードサイドの逃亡者』、『電人ザボーガー』、『劇場版 神聖かまってちゃん』、『トーキョードリフター』、『UNDERWATER LOVE-おんなの河童』、『サウダーヂ』、『監督失格』などなど。注目の話題作・問題作の熱い記事が詰まっています。

私がおもしろく読んだのは俳優の川瀬陽太さんによる「極私的『サウダーヂ』記」。力強い文章で綴られたスリリングな撮影の舞台裏に、何度でもこの傑作映画を観返したくなります。
そして私も『UNDERWATER LOVE-おんなの河童』クロスレビューを執筆してます! ピンク映画ながら乙女心をときめかせるちょっと怪奇なファンタジーの魅力を女性4人で分析してます。ぜひお読みください!!

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『アジアの純真』初日舞台挨拶レポート

hito_revi2011-10-18


極東の片隅で出会った在日朝鮮人の少女と日本人の少年が、クソみたいな世の中を変えるため、毒ガスを手に旅に出る……。アートで尖った青春映画の意欲作であるにも関わらず、民族という難しい問題を扱ったため2年以上も公開の目処が立たなかった『アジアの純真』が、10月15日に新宿K's cinemaでついに公開されました。初日舞台挨拶には主演の韓英恵さんと笠井しげさん、脚本の井上淳一さん、そして片嶋一貴監督が登壇し、短い時間ながらも作品や映画界に対して熱い思いをぶつけてくださいました。


左から 井上淳一さん、笠井しげさん、韓英恵さん、片嶋一貴監督

この日はあいにくの雨でしたが、話題作ということで満席となる盛況ぶり。韓さんは足を運んでくれたお客さんにお礼を言い、「この作品に出演したことで心境など何か変わりましたか?」という質問に答えました。

韓さん「自分自身にまっすぐに向き合うことができました。自分はハーフで22歳に国籍を決めなくちゃいけないんですが、まだ決めていないんです。昔からの人間関係とかにもうまくいかないところがあって逃げてきたんですけれども、この作品に出会って自分にまっすぐ向き合えるようになりました」


韓英恵さん

ボルドーのフェミニンなワンピースがとても似合っていた韓さん。そのお隣の笠井さんもジャケットをラフに着こなし爽やかなイケメンぶりでした。映画では内向的な高校生役を演じた笠井さんに、「2009年に撮影されてから2年半を経て公開されることについて、どのように考えていますか?」との質問が。

笠井さん「待ちに待っていたので『やっと来たな』と思いますね。観直してみると顔だとかお芝居だとかが全然違っていて、みなさんはこの後観ると思うんですけど、別人ですよね(笑)。そこを楽しんでもらえるといいかなと思います。よろしくお願いします!」


笠井しげさん

この作品は公開には時間がかかりましたが、海外の数々の映画祭に出品され、特にパリシネマ映画祭やロッテルダム国際映画祭などヨーロッパで高評価を受けていました。何ヵ所か行っている脚本の井上さんが、映画祭での反響について語りました。

井上さん「多くの国内映画祭と映画館に断られてきたので、外国に行ってどういう評判なんだろうと思っていました。ただ、賛否両論と言われますけど、ティーチインが上映後にある場合、向こうの人はダメな場合は参加せず出てしまうので、残った人の意見は大変好意的でした。ロッテルダムでの上映後、おばさんが近寄ってきて「ビューティフル・フィルムだった!」と言ってくれたのが一番印象に残っています。ちょっと感動しましたね。だから帰ってきて、まさかネットで賛否両論と言うか否だけが起こっているとは思わなかったので、それに驚いた次第です」


井上淳一さん

そんな井上さんの言葉を受けて、「なんで○○映画祭はこの映画を断ったんじゃい!」と語調を荒げる片嶋監督。窮屈な日本の映画界に思うところがあり、ご自身が代表を務める映像制作会社の自主製作映画としてこの作品を撮ったそうです。

片嶋監督「大きな映画は当然お金がかかるものだし、この手の小さい規模でこういう内容のものはなかなかできにくいと思うんですが、あまりにも同じようなモノばかりできると面白くないんで、ドッグシュガーの中で“ドッグシュガー・アヴァンギャルド”というレーベルを作ろうみたいな話になりまして。自分たちのお金で自分たちのやりたいものを作り、配給まで自分たちでやろうというプロジェクトなんですけど、その第1弾としてこの作品を作りました。今度若松(孝二)さんに来ていただいて“自分の金で映画を作れ!”っていうテーマでトークショーをやるんですけど、師匠筋の若松さんがやってきたことがすごく参考になり、やってよかったと思いました。日本映画にとって一番大事なものは多様性なので、いろんな映画を作れる環境、そして観れる環境がちゃんとできていったらいいなと思います」


片嶋一貴監督

最後に韓さんが作品への思いを語ってくれました。

韓さん「この映画はネットで書かれているように反日映画とかではなくて、私は青春映画として、ロード・ムーヴィーとして観ています。しげがさっき言ったように、2年前のピュアで穢れがなかった大人じゃない自分のすべてをここに刻みました。十代最後の思い出の映画として、最後が『アジアの純真』で本当によかったなと思っています」

「今は穢れてるってこと?」と途中で笠井さんに突っ込まれて「そんなことはないんですけど!」と苦笑いする場面もありましたが、スクリーンの中で走り、叫び、睨み付ける野性的な美しさは、多分この世代特有のものだという気が大いにします。キャストもスタッフも渾身の力を込めた力作、ぜひ多くの人に観ていただきたいと思います。

笠井さん、韓さん


★and more……★
・K's cinema公開中は連日トークショーが予定されています。現在決まっているスケジュールは次のとおりです。豪華なのでお見逃しなく!
10月15日(土) 17時からの回上映前/21時10分からの回上映前 初日舞台挨拶:韓英恵、笠井しげ、井上淳一(脚本)、片嶋一貴監督
10月16日(日) 21時10分からの回上映後 荒井晴彦(脚本家)×寺脇研(映画評論家)  トークテーマ:「映画芸術」出張版!
10月17日(月) 21時10分からの回上映後 足立正生(映画監督)×雨宮処凛(作家・社会運動家  トークテーマ:政治と青春
10月18日(火) 21時10分からの回上映後 若松孝二(映画監督)×片嶋一貴監督×井上淳一  トークテーマ:中高年の為のインディペンデント映画講座〜自分の金で映画を作れ!〜
10月19日(水) 21時10分からの回上映後 内田春菊(漫画家)×韓英恵   トークテーマ:闘わない男、闘う女
10月20日(木) 21時10分からの回上映後 蜷川実花初監督作品「Cheap Trip」(韓英恵主演)劇場初公開!
10月21日(金) 21時10分からの回上映後 瀬々敬久(映画監督)×鍋島淳裕(カメラマン)×片嶋一貴監督  トークテーマ:商業映画とインデペンデント映画
10月22日(土) 上映後 PANTA(ミュージシャン)×白井良明(ミュージシャン)×片嶋一貴監督   トークテーマ:音楽や映画におけるパンク精神
10月23日(日)〜24(月) 上映後 蜷川実花初監督作品「Cheap Trip」(韓英恵主演)劇場初公開!
10月25日(火) 上映後 青山真治(映画監督)×片嶋一貴監督×井上淳一  トークテーマ:海外映画祭で日本映画はどう観られているか
10月26日(水) 上映後 韓英恵×笠井しげ   トークテーマ:メイキング・オブ PURE ASIA「寒くて辛くて大変でした」
10月27日(木) 上映後 黒田耕平×丸尾丸一郎×川田希×澤純子   トークテーマ:メイキング・オブ PURE ASIA 「撮影秘話全部しゃべっちゃいますっ!」
10月28日(金) 上映前 韓英恵、笠井しげ、井上淳一片嶋一貴監督による舞台挨拶


・私が取材した韓英恵さんインタビュー記事がINTROにアップされています。この作品に出会って、それまでスルーしてきた自らのルーツに向き合い、18年間の人生を刻み付けたという作品への思いを語っていただきました。ぜひお読みください。
INTRO|韓英恵インタビュー:映画「アジアの純真」について【1/3】【2/3】【3/3】


アジアの純真』 2009年/35mm/108分/白黒
10月15日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー!
11月5日よりシネマスコーレ(名古屋)
11月中旬より第七藝術劇場(大阪) 他、全国順次公開!
出演:韓 英 恵,笠井しげ,黒田耕平,丸尾丸一郎,川田 希,澤 純子,パク・ソヒ,白井良明ムーンライダース),若松孝二
エグゼクティブプロデューサー:小曽根太,石川始 プロデューサー:木滝和幸,門馬直人 ラインプロデューサー:安藤光造
撮影:鍋島淳裕 照明:堀口 健 録音:臼井 勝 美術:佐々木記貴 音楽:ken sato
編集:福田浩平 VFX:柳 隆 助監督:茶谷和行 スケジューラー:江良 圭
配給:ドッグシュガームービーズ 企画・制作プロダクション:ドッグシュガー
製作:ドッグシュガー,ロード・トゥ・シャングリラ,HIP
脚本:井上淳一 監督:片嶋一貴 (C)2009 PURE ASIAN PROJECT
公式サイト

『UNDERWATER LOVE-おんなの河童』初日舞台挨拶レポート

『おんなの河童』舞台挨拶


カルト的な人気を誇るいまおかしんじ監督が、ドイツのピンク映画ファンからの熱烈なラブコールを受けて制作した日独合作ピンクミュージカル『UNDERWATER LOVE-おんなの河童』。
撮影はウォン・カーウァイ監督作など世界を股にかけて活躍するクリストファー・ドイル! 劇中歌はドイツのデュオ・グループ、ステレオ・トータルが日本語で歌うエレクトロ・ナンバー。河童役には松江哲明監督のドキュメンタリー映画童貞。をプロデュース』(07)での「童貞2号」として強烈な印象を残した梅澤嘉朗。……と、とことん異種格闘技的な、でもとてもキュートで最後はじんわりハート・ウォーミングな作品です。
10月8日、ポレポレ東中野でついに公開となり、1日4回上映の全ての回で舞台挨拶が行われました。いまおか監督、正木佐和さん、梅澤嘉朗さん、成田愛さん、守屋文雄さん、吉岡睦雄さんが登壇した3回目の舞台挨拶の模様をレポートします。


左から、いまおかしんじ監督、梅澤嘉朗さん、正木佐和さん、成田愛さん、守屋文雄さん、吉岡睦雄さん

河童の着ぐるみ姿の梅澤さん、ワンピースを着た死神役の守屋さんが出てくるだけで、映画を観たばかりのお客さんの笑いを誘います。初日に足を運んでくれたお客さんに一言ずつ挨拶をしたあと、MCの直井卓俊さん(SPOTTED PRODUCTION)からの質問に答える登壇者たち。
この作品は、多忙なクリストファー・ドイルが本当に撮ってくれるのか?ということが実はギリギリまでの不安材料だったとのこと(!)。そのへんの事情から、まずヒロインの正木さんに質問がありました。

正木さん「監督がいまおかさんだということは最初に聞いていたんですけど、撮影監督が私が大学時代からファンだったクリストファー・ドイルさんということで『ほんまかいな』と思いまして、面接のときにも監督に『本当にクリスさん来るんですか?』って訊いたんです。そうしたら監督から『僕も現場に入らないと分からないんだよね』っていう答えが返ってきました(笑)」


正木佐和さん

いまおか監督「やってくれるっていう話は聞いていたんですけど、スケジュールがよく分からないと言うか、家がない人なので(笑)。いや、あるんでしょうけど世界のあっちで撮影、こっちで撮影ってしてるので。たまたま10日間ぐらい空いていたので来るってことになって、だからもう現場の3日ぐらい前ですもん、会ったの(笑)。何が何だか分からないうちに撮影が始まり、撮影が終わり……、という感じでしたね」


いまおかしんじ監督

次に、ミュージカルということで大変だったのでは、という質問が正木さんに。

正木さん「めちゃめちゃ大変でした。しかもフィルムだから絶対NGを出しちゃいけないと思ってがんばったんですけど、それ以上にいまおかさんとクリスさんという変なおじさんたちと一緒に……、ごめんなさい!お兄さんたちと一緒に(笑)仕事ができたことは貴重な体験でした。また、ドイツのケルンでのプレミアに立ち会うことができまして、ステレオ・トータルと一緒にライヴをして歌ってきたり、そういう体験もさせていただけて本当にありがたいと思います。ステレオ・トータルのフランソワは『死神が好き』って言ってました」

死神役の守屋さんはまんざらでもないご様子でした。次に役者が本業ではない梅澤さんに撮影で大変だったことは?との質問が。

梅澤さん「そうですね、せっかくクリストファー・ドイルが撮るのに俺なんかでいいのかと、いまおかさん頭がおかしいんじゃないかと思いました(笑)。踊りは大変でしたけど、現場の雰囲気もクリスさんも陽気で、楽しかったです」


梅澤嘉朗さん

いまおか監督「やっぱりミュージカルだし、初めての外人のカメラマンだし、大変だったんですよ。だけど大変で訳が分からなくなった中で、パッと梅澤くんが浮かんだんですよ(笑)。で、「出てくれる?」って電話をしたら、『バイトの都合が付けば出ます』と言われたんですが(苦笑)。まあ無事バイトの都合も付いて」

梅澤さん「始めたばっかりのバイトだったんですよ。休めるかどうか分からなくて」

いまおか監督「でも梅ちゃんが出るってなったらまた『イケる!』って気持ちが高まりましたね。これは面白くなるなって思って」

次にこの映画のセクシー担当、成田愛さんがクリストファー・ドイルからの演出についてお話してくれました。

成田さん「スカートをどんどんまくられていくんですよ。自分では普通に歩いているだけのつもりだったシーンを試写で観たら、『あ、ワカメちゃんみたいになっちゃってる!こんなに(スカート)上げられていたんだ!』って(笑)」


成田愛さん

クリスはピンク映画撮影監督としての腕も冴えているようでした。
共同脚本を手がけながら死神役で出演した守屋さん。

守屋さん「現場は本当に楽しいということだけしかなくて、申し訳ないぐらいでした。台本ができるまでに2年間もかかって、もう本当にご迷惑をかけて申し訳ないなって思いながら、撮影に入ると楽しい楽しいって。最後の奥地のシーンでクランク・アップだったんですが、印象的でしたね」


守屋文雄さん

と産みの苦しさを滲ませるとともに撮影をとても楽しんだ様子が伝わってきました。そんな守屋さん演じる死神がステレオ・トータルのフランソワに気に入られていたことにちょっとジェラシーを感じていたらしい吉岡睦夫さん。

吉岡さん「いまおかさんと正木さんはいろいろ映画祭に行かれている中で、ステレオ・トータルさんは死神がよかったよと言われてたということだったんですけど、誰か滝はじめがよかったと言っている方はいました?」

正木さん「えっと、『どうしてああいう髪型なのか』とか『どうしてカッコ悪い感じなの?』ってどこかの映画祭で質問を受けました」

いまおか監督「『お前ら何やってるんだ!』って来るとこで結構笑いが起きてた。なんでか分からないんだけど」

正木さん「やっぱりハイトーンボイスだと思います」

吉岡さん「分かりました……。ありがとうございます……」


吉岡睦雄さん

そして監督にこの映画が作られた経緯を語っていただきました。

いまおか監督「ピンク映画が好きなステファンというドイツ人がいて、映画を作ったことがない人なんですけど、自分もピンク映画を作りたいって言って、おカネを出すからピンク映画を撮らないかと。『俺はボリウッド映画が好きなんだ。ピンクでミュージカルを作ってくれ』って、簡単に言うんですよね(笑)。『エ〜ッ??』みたいのがあったけど、じゃあやりましょうかということになって、ああだこうだありましたけど完成できて。一時は本当にインできないかと思った時期もあったので、出来はともあれ、観てもらえたっていうことがいちばんいいなって思います。今日は嬉しいです」

また、『おんなの河童』公開を記念して、いまおか監督の旧作もポレポレ東中野で連日特集上映中です。上映作のうち『カエルのうた』という作品こそが、ステファンさんが観て気に入り、ミュージカルが撮れるんじゃないかと勘違い(?)した作品だそう。『おんなの河童』関連作としてこの機会にぜひどうぞ。

最後に、アメリカ・テキサス州でのオースティン・ファンタスティック映画祭にてベストアクトレス賞を受賞した正木さんに花束が贈られました。

正木さん「その映画祭に行かれたのは監督だけで、私は行かなかったのでまだ実感が湧いていなかったんですけど、今ここでお花をいただいて初めてジワーっときましたね。本当にありがとうございます!」


正木佐和さん

大感激の満面の笑顔がとても素敵でした。ご本人もとても優しく伸びやかな方なのだろうなということが舞台挨拶から伝わってきたのですが、そんな屈託のなさがヒロイン明日香役にぴったりで、授賞にも大いに納得です。
ピンク映画ファンはもちろん、少女の心を忘れない女性やほっこりしたいと思う全ての人に観てもらいたい作品。この後もトークショーなどイベントの機会が数多くあります。奇才スタッフ・キャストのお話に触れながら、いろいろな切り口からぜひ楽しんでください。

★and more……★

・現在予定されているトークショーのスケジュールは以下のとおりです。
ポレポレ東中野 20:30〜上映後

10.9(日)漫画家とプロインタビュアーと「おんなの河童」
いまおかしんじ監督×古泉智浩(漫画家)×佐藤香穂(漫画家/『おんなの河童』イラスト提供)×吉田豪(プロインタビュアー)

10.12(水)「おんなの河童」元ネタ暴露?水木しげるリスペクトナイト
いまおかしんじ監督×鈴木卓爾(映画監督/『ゲゲゲの女房』)×守屋文雄(『おんなの河童』脚本・出演)

10.14(金)童貞2号から踊る河童へ〜国際派俳優・梅澤嘉朗を囲んで
いまおかしんじ監督×梅澤嘉朗(『おんなの河童』出演)×松江哲明(ドキュメンタリー監督/『童貞。をプロデュース』etc.)

10.19(水)いまおかVS次世代監督トーク VOL.1
いまおかしんじ監督×今泉力哉(映画監督/『終わってる』)×吉田浩太(映画監督/『ソーローなんてくだらない』)×長谷部大輔(映画監督/『絵のない夢』)

10.20(木)死神脚本家・守屋文雄を囲んで
いまおかしんじ監督×守屋文雄(『おんなの河童』脚本・出演)×沖田修一(映画監督/『キツツキと雨』)×城定秀夫(映画監督/『タナトス』)

10.28(金)いまおかVS次世代監督トーク VOL.2
いまおかしんじ監督×内藤瑛亮(映画監督/『先生を流産させる会』)×加藤行宏(映画監督/『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』)×天野千尋(映画監督/『チョッキン堪忍袋』)

ユーロスペース 21:10〜上映後

10.22(土)検証!いまおか=山下ライン
いまおかしんじ監督×山下敦弘(映画監督/『マイ・バック・ページ』)×森直人(映画評論家)

10.26(水)新生アイドル研究会 VS 「おんなの河童」
いまおかしんじ監督×Bis(プー・ルイヒラノノゾミテラシマユフナカヤマユキコ)×南波一海(音楽ライター)

10.31(月)河童女子流〜「おんなの河童」女性人気を探る。
いまおかしんじ監督××正木佐和(『おんなの河童』主演)×森下くるみ(文筆家)

『UNDERWATER LOVE-おんなの河童』 2011年/日本/カラー/86分/35mm
監督・脚本:いまおかしんじ
脚本:守屋文雄
撮影:クリストファー・ドイル
音楽:ステレオ・トータル
出演:正木佐和 梅澤嘉朗 成田愛 吉岡睦雄 守屋文雄 佐藤宏
(C)国営株式会社/Rapid Eye Movies/インターフィルム
公式サイト
10月8日(土)ポレポレ東中野|10月22日(土)ユーロスペース|10月下旬・ドイツ6都市ほか全国順次ロードショー!

『アジアの純真』主演韓英恵さんインタビュー記事がINTROにアップされました

韓英恵さん


見て見ぬふりはもうヤメだ!

拉致事件に憤る日本人が反朝鮮感情を高めた2002年。チマチョゴリを着た少女がチンピラの犠牲となり、その勝ち気な妹と、彼女を救えなかった気弱な少年とが「世界を変える」ために毒ガスを手に取り旅に出る……。

脚本家の井上淳一さんが2003年から温めていた題材を、2009年、韓国人を父に持つ女優の韓英恵さんを主役に据えて片嶋一貴監督がついに映画化。タイトルはパフィーの名曲と同じ『アジアの純真』。センセーショナルな内容ゆえになかなか公開が決まりませんでしたが、各国の映画祭では大いに話題になり、ついにこの10月に公開の運びとなりました。

私が取材した韓英恵さんインタビュー記事がINTROにアップされています。この作品に出会って、それまでスルーしてきた自らのルーツに向き合い、18年間の人生を刻み付けたという作品への思いを語っていただきました。
この作品で女優としても人としても脱皮できたと語るとおり、今の韓さんはとても自然体で伸び伸びした素敵な女性。大学生活も謳歌し、輝いているなあと思いました。ぜひご一読を。そしてパンクな青春ロード・ムーヴィー、『アジアの純真』もお見逃しなく! 監督と脚本の熱いお二方は若松組出身。若松孝二監督も出演しています。

INTRO|韓英恵インタビュー:映画「アジアの純真」について【1/3】【2/3】【3/3】


アジアの純真』 2009年/35mm/108分/白黒
10月15日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー!
11月5日よりシネマスコーレ(名古屋)
11月中旬より第七藝術劇場(大阪) 他、全国順次公開!

出演:韓 英 恵,笠井しげ,黒田耕平,丸尾丸一郎,川田 希,澤 純子,パク・ソヒ,白井良明ムーンライダース),若松孝二
エグゼクティブプロデューサー:小曽根太,石川始 プロデューサー:木滝和幸,門馬直人 ラインプロデューサー:安藤光造
撮影:鍋島淳裕 照明:堀口 健 録音:臼井 勝 美術:佐々木記貴 音楽:ken sato
編集:福田浩平 VFX:柳 隆 助監督:茶谷和行 スケジューラー:江良 圭
配給:ドッグシュガームービーズ 企画・制作プロダクション:ドッグシュガー
製作:ドッグシュガー,ロード・トゥ・シャングリラ,HIP
脚本:井上淳一 監督:片嶋一貴 (C)2009 PURE ASIAN PROJECT
公式サイト

『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ

hito_revi2011-07-16


 長い沈黙を破って発表した『アンナと過ごした4日間』(08)で熱狂的な再評価を受けたイエジー・スコリモフスキ監督の新作が、中東を舞台にしたヴィンセント・ギャロ主演のアクションものだと聞いたときには大いに驚いた。そんな大作を撮ってしまうのか、と。だが昨年の東京国際映画祭で本邦初公開となった本作『エッセンシャル・キリング』は、こちらの勝手な想像など軽く裏切るミニマルで執拗なスコリモフスキならではの異色作だった。
 アフガニスタンの砂漠を偵察する3人のアメリカ兵を、洞窟に身を潜めていた男・ムハンマドヴィンセント・ギャロ)がバズーカで吹き飛ばす。彼はあえなく捕まるが、乗っていた護送車が事故を起こしたのに乗じて逃亡する。雪に覆われた森をあてどもなく、ただ生き抜くために。

 生存本能に導かれた彼の行動は、名付けるなら“エッセンシャル・リヴィング”=本質的な生存行動、と言うべきものだろうが、極限状況で生きることは何かを殺すこと。獲物を追って殺し、追ってくる者と闘って殺し、善悪を超えた自然の一部となって、ムハンマドは“エッセンシャル・キリング”=本質的な殺害を繰り返す。
 ギャロは言葉を封じられているが、独特の風貌と肉体で、人の原初の形とでも言うような主人公を見事に演じている。長髪に髭を生やし、白い防寒スーツに十字架のような血の染みを付けたムハンマドは、苦悩するキリストを想起させる。ムハンマドというその名前はイスラム教の開祖と同じで、彼もきっとイスラム原理主義の戦士なのだろうけれど、人間が自然に融け合うように、宗教も超越した世界がここでは描かれる。

 ギャロはまた崖から滑り落ち、犬に追い立てられるという身体を張った演技でダイナミズムを見せ、木の皮を齧り、釣り人から魚を奪い、女性の乳房に貪り付くという切迫した行為では笑いを引き起こす。音楽もない、水墨画のような幽玄な世界だが、何が起こるか分からないスリリングさにまったく目が離せない。
 そんな無情の旅の果てに、彼はある家に吸い寄せられるように辿り着く。「きよしこの夜」が流れるクリスマスの季節、家に一人残された女性に、彼は手厚く介抱される。彼女はろうあ者で、会話はないのだが、孤独な者同士何か本質的に惹かれ合うものがあったのか……。ひとときの休息の後、ムハンマドは再び旅に出る。もう彼にはほとんど力が残っていないのだが、人の慈愛を知り、白い馬を静かに駆る彼の姿は逞しくヒロイックだ。混沌とした世界の中のエッセンスを取り出し見せようとした、スコリモフスキの新たな試み。激しく心を突き動かされる傑作だ。

『エッセンシャル・キリング』 Essential Killing
2010年/ポーランドノルウェーアイルランドハンガリー
カラー/英語、アラビア語ポーランド語/1時間23分/35mm
監督:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキエヴァ・ピャスコフスカ
出演:ヴィンセント・ギャロエマニュエル・セニエ、ザック・コーエン、イフタック・オフィア、ニコライ・クレヴェ・ブロック、スティング・フロデ・ヘンリクセン、デイヴィッド・プライス、トレイシー・スペンサー・シップ、クラウディア・カーカ、ダリユシュ・ユジュン
配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム
7月30日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト

『ふゆの獣』初日舞台挨拶レポート

『ふゆの獣』初日舞台挨拶


昨年の東京フィルメックスで自主映画ながら最優秀作品賞を受賞した『ふゆの獣』が、7月2日、テアトル新宿にてレイトショー公開されました。上映前には舞台挨拶が行われ、加藤めぐみさん、佐藤博行さん、高木公介さん、前川桃子さんのキャスト全4人と内田伸輝監督が登壇しました。


左から 加藤めぐみさん、佐藤博行さん、高木公介さん、前川桃子さん、内田伸輝監督

これまでの作品『えてがみ』、『かざあな』も数々の映画祭で受賞を重ね、映像作家としての力量にはすでに定評のある内田監督ですが、劇場公開は『ふゆの獣』が初めて。初日を盛況で迎えられ、とても感激した様子で「今日は本当にありがとうございます。『ふゆの獣』がこのテアトル新宿を始めとしてどんどん世の中に広まっていくことを僕自身願っております」とまずは挨拶されました。


内田伸輝監督
『ふゆの獣』は表現力に優れた作品ながら、製作費110万円という低予算で作られたということが驚きをもたらし話題ともなっています。このことについてまず尋ねられると、内田監督は「自主映画なので、そのとき必要なおカネを集めて撮って後から計算してみたら110万円だったということです。最初から110万円でやろうだとかそう言ったことを考えて撮っていたわけではないですし、他の方が自主映画をどれぐらいの予算で撮っているのか分からないので、教えてください(笑)」と答えました。製作費については特に意識したり、ましてそれを制約と感じたりすることはなく、あくまでも自由に作った結果だということなのですね。
また、この作品の特徴は、脚本がなく芝居を役者の即興に任せているということ。独特な撮影方法についても内田監督は語ります。「プロットはできていまして、大まかなストーリーとキーになる台詞はあるんですが、それ以外は役者さんに自由に即興で演技してもらい、僕も即興で撮影をしていきました。キャラクターの背景と言うかバックボーンも役者さんには伝えていましたが、リハーサルは全然やらず、集まってちょっと打合せをして、じゃあ本番ということでワンシーンワンカットで撮っていきました。基本的に撮影はDVテープ60分、一気に長回しで撮るんですけど、1回撮って修正とか入れてまた60分長回し、というやり方でした」。


次にキャストひとりひとりからお話を伺います。まずはユカコ役の加藤めぐみさん。プリントのワンピースに赤いパンプスという夏の装いで、映画とは違うリラックスした笑顔が素敵です。「自分たちのような自主映画が劇場公開されて、何と言ったらいいか分からないほど嬉しいです」とまずは噛みしめるように喜びを語りました。

加藤めぐみさん
劇団「零式」を旗揚げし、看板女優として活躍する演技派の加藤さんですが、この作品での即興芝居はかなり刺激的な体験だった模様。「元々演劇をやっていたのですが、アドリブ自体は苦手で、今回全部アドリブだったのでどうしようって(笑)。ユカコは私の持っていない性格をたくさん持っている役でしたので、ギャップを埋めるために4ヶ月間かけて役作りをしていきました。そんなに役作りをして臨んだはずなのに、本番でカメラが回ると我を忘れてここがどこだかも全然分からなくなって、内田さんがカメラを回しているのに気付いて『あっ、これは映画だ』みたいな。そういう経験をしたのは初めてでした」。のめり込んだ圧倒的な演技は、ぜひ映画で確かめてください。


佐藤博行さんが演じたのは、浮気をして恋人のユカコを苦しめるシゲヒサ役。「シゲヒサは酷い男だと言われることが多いんですけど、今の世の中と言うか社会的なものの中から生まれてきたような人間だなという気がしていて、こんな男は結構どこにでもいるんじゃないのかなと。観てご判断いただきたいなと思います」。

佐藤博行さん
確かにシゲヒサの人間臭さは万国共通で通じるものがあったようです。『ふゆの獣』はロッテルダム国際映画祭に出品され、上映された4回全てがソールドアウトとなる好評ぶりだったのですが、その際のこんなエピソードを披露してくれました。「上映が終わってロッテルダムの街を歩いていたら、後ろから『ヘイ、バッド・ボーイ!』って呼び止められて。向こうの人は背も高いし、『カツアゲだ、ヤバイ!』と振り向いたら『『ふゆの獣』すごくよかったよ〜。お前バッド・ボーイだな!』と、映画を観てくれたお客さんでした(笑)。結局20人ぐらいの方に声をかけられましたね」。
陸上自衛隊に在籍していたことがあるという経歴も披露し、意外と(?)マッチョな佐藤さん。役柄の幅を広げての活躍に期待したいです。


ちょっとミステリアスなシゲヒサとは対照的に、少年のように素直なノボル役を演じた高木公介さん。ご本人もなかなか向こう見ずに突っ走る性格のようです。『ふゆの獣』は女性二人は監督ご自身がキャスティングし、男性キャストはミクシィで募ったのですが、高木さんが募集を知ったのは期限を過ぎた後だったとのこと。「内田さんの作品にどうしても出たい!と思い、人生で初めてじゃないかというぐらいのとても長いメールを書いて、『どうにか受けさせてほしい』という思いを伝えたんです。その熱意が受け止めてもらえたと思っています」と熱く語りましたが、内田監督は「そうですね、(メール)長かったですね。何言ってるのか分からないところもありましたけど」と(笑)。

高木公介さん
また、片想いの辛い心理を追求するための役作りのエピソードも披露してくれました。「前川さん演じるサエコに想いを寄せる役だったので、撮影前に前川さんと仲良くなろうとしてメールをしたりしたんですが、誘っては断られ、前川さんの画像を待受けにすれば、それもキモがられ。そんな感じで自分なりに役作りはしていました」と。笑わせてくれながらも、観客への前向きなメッセージも心に残りました。「僕はいろいろ欠点は多い男ですけど、自分が大好きです。この主人公4人もダメなところはありつつとても可愛らしいので、それを見た上で自分も好きになっていただけたらと思います。そしたら少しハッピーになって帰れるんじゃないかと思います」。


そんなつれないサエコを演じた前川桃子さん。壇上でも小さくて笑顔がキュートですが、鮮やかなオレンジのトップスと黒のロングスカートというスタイリングに情熱的で芯の強い内面が表れるようでした。「サエコ役は、毎日を楽しく生きている女の子にしたいなと思って演じていました。恋愛面では彼女がいる男の人を好きになってしまい、浮気相手というのは理解していても自分が好きだという気持ちを信じて突っ走ってしまう女の子で、やっていてつらかったです……(苦笑)。監督からは細かい演技の指示は受けなかったんですけど、緊張感と爆発力を出すようにと言われまして、とても抽象的でどうしたらいいんだろうって。緊張感は4人で何とか作り出せたらいいなと思い、爆発力というのは浮気相手という辛い気持をどんどん重ねていって、集まったときに出せたらいいなと思っていました」。

前川桃子さん
また、『ふゆの獣』ではキャストたち自らがチラシ配りなどの宣伝活動を行っているのがツイッターで報告され、本当に全てを自分たちで作り上げているんだなあということを感じさせてくれます。京都出身の前川さんは、京都に宣伝に行ってきたそう。「1週間ぐらい前に京都に行って、上映が決まっている京都シネマさんにご挨拶してきました。これからどんどんこの映画を盛り上げて行けたらいいなと思っています」と、とても意欲的でした。


内田監督も、「今日が本当にスタートです。観てくださっていいなと思ってくれたら、100人ぐらい劇場に連れてきてもらえたら本当にありがたいです。ネットなどでも感想を書いてくださって広めていただけたら嬉しいです」と再度呼びかけ、最後は全員の地声での「どうぞよろしくお願いします!」という挨拶で締め括られました。


★and more……★
・『ふゆの獣』の公開を記念して、内田伸輝監督の旧作『えてがみ』『かざあな』の特別上映が行われます。これまで映画祭やイベントでしか観られなかった作品が劇場で初公開。お見逃しなく!<東京> K's cinema 7/23(土)−7/29(金)<名古屋> シネマスコーレ 7/19(水)−7/22(金)<京都> 京都みなみ会館 8/2(火)−8/7(日)
「内田伸輝監督特集『えてがみ』『かざあな』特別上映」公式サイト


・INTROに内田伸輝監督のインタビューが掲載されています。即興の演出方法などについてより詳しくお話いただいていますのでぜひお読みください。
INTRO|内田伸輝監督インタビュー:映画『ふゆの獣』について【1/2】【2/2】


『ふゆの獣』 Love Addiction 2010年/日本/カラー/ステレオ/92分
監督・編集・構成&プロット・撮影・音響効果:内田伸輝
制作・撮影・スチール・ピアノ演奏:斎藤文
出演:加藤めぐみ 佐藤博行 高木公介 前川桃子
製作:映像工房NOBU
配給:マコトヤ
©映像工房NOBU
公式サイト
2011年7月2日(土)より緊急レイトショー! テアトル新宿 他順次全国

異色キャストが多数登壇!『シンクロニシティ』初日舞台挨拶レポート

シンクロニシティ

新鋭・田中情監督の第2作目『シンクロニシティ』が6月11日、渋谷アップリンクXにて公開となり、1日3回上映のそれぞれの回にて初日舞台挨拶が行われました。主演のお二人、小林且弥さんと宮本一粋さんが登壇した1回目は残念ながら見逃してしまいましたが、脇を固めた異色キャストが登壇した2回目と3回目の舞台挨拶の模様をレポートします。

まずは田中監督が挨拶。福岡の工業高校出身、上京して職を転々としながら独学で映像の技術を身に付け、映画制作の現場の体験がないままに前作の『キリトル』を撮った異色の経歴の持ち主です。『シンクロニシティ』はミュージシャンなどプロの俳優ではない人たちをキャスティングするセンスも絶妙なのですが、そんな映画館とは縁遠い面々が登壇する舞台挨拶はレア! ということもあってか各回とも満席の盛況ぶりでした。

田中情監督

スクリーン前から場内を見渡して、「うん、入ってますね。みなさんこんにちは!」と嬉しそうな田中監督。震災を経ての公開となったことで、やはり伝えたい思いもより強いものになったよう。言葉を選ぶように舞台挨拶を始めました。
田中監督「『シンクロニシティ』は昨年の4月に撮り終え、今年の5月ぐらいに公開をしようということで劇場と話が進んでいたんですけど、3.11という世界が変わってしまうような大惨事があって。直後には映画どころではないなという考えだったんですが、『何でも今できることをやりましょう』と劇場の方とお話をして、1ヵ月遅れで公開の運びとなりました。震災があっていろいろと考え方も変わって、今ようやく冷静に事態を捉えることができるようになってきました。これからみんな震災について考えていく時期に入ると思うんですけど、『シンクロニシティ』もいろいろ考えていただける映画になっていますので、何かを持ち帰ってもらえたら嬉しいです」

田中情監督、富澤タクさん、松田百香さん

感慨深い挨拶のあと、多彩なキャストを迎え入れます。2回目の舞台挨拶には松田百香さんと、グループ魂などで活躍する富澤タクさんが登壇。まず田中監督が初日を迎えた感想を松田さんに尋ねます。
松田さん「嬉しいですね! 昨日の予報では雨だったので、寝るときに『晴れますように、晴れますように』とお祈りしてたんですけど、起きたら土砂降りで。私雨女なのでダメだったなあと思っていたんですけど、小降りになってきてよかったです」
そんな元気いっぱいの松田さん、1年前に撮影した映画の役とは髪型もファッションもかなり変わっています。映画ではとってもカジュアルですが、この日はセミロングにワンピースの可愛らしい姿で登壇し、「さすが女優!」と目を見張りました。でも会うのが久しぶりだったとは言え、監督までもが顔を見ても松田さんだと気付いてくれなかったそう。
松田さん「『お前誰?』みたいな顔されて(笑)。みなさん私がどこに出ているか探してくださいね〜!」

そんな明るい松田さんの横でちょっと落ち着かなさそうな富澤タクさん。でも監督が水を向けるとポツポツと映画のことを話し始めました。
田中監督「ステージと違ってアウェーな感じですか?」
富澤さん「あんまり居心地がいい感じじゃないですね。僕はお酒の場で監督と知り合い、1作目の『キリトル』を観て『機会があれば音楽を付けてみたい』とコメントを寄せたんです。で、今回2作目を撮るということで、音楽やらせてもらえるかなあと思っていたら、監督が音楽は付けないことにこだわりたいとのことで。まあ1作目もそうだったので『そうか』と思っていたんですけど、そんなやりとりをしているうちに『ちょっと出ませんか』ということになって(笑)」

富澤タクさん

意外な出演の経緯に客席もびっくり。また、富澤さんは福島県出身で、震災以来熱心に支援活動などもされています。そのことについても語ってくれました。
富澤さん「実家が福島で、弟が原発の近くに住んでいるような状況なので、地震があって生活の流れが変わりましたね。まあ元気でやってますけど、やはり地震の前後では感覚が変わったところがあって、風景の見え方も音楽の聴こえ方も映画の観方も変わったなと思います。『シンクロニシティ』も震災を挟んで観ることになったんですけど、そういうことがあっても悪い意味で変わることがなく、耐久性を持った作品なんだなというふうにあらためて思いましたね。……大丈夫ですか?こんな真面目な話(笑)。あとは僕は学生のときに美術系の学校で油絵をやっていたので、主人公を見て『ああ、こういう感覚あったなあ』と懐かしく思いながら観たりもしていました」
作品についての思い入れの深さを見せてくれた富澤さん。「僕は舞台挨拶をするほど出ていないんですけど(笑)」とも言っていましたが、なかなかの怪演なのです。お見逃しなく!


次の3回目の舞台挨拶には、星野あかりさん、潟山セイキさん、百々和宏さんが登壇。

星野あかりさん、潟山セイキさん、百々和宏さん

まずは映画の中で見事な肢体を披露した星野あかりさん。実物の輝く美貌に目を奪われましたが、お話を始めるととっても女性らしく、そしてアーティスティックで芯がしっかりしている方なのに惚れ惚れ。
星野さん「私は美術教師の役で登場しています。実際プライヴェートでも絵を描いていて、映画の面接のときに監督から『星野さん、絵を描きますね』と言われて」
田中監督「プロフィールに書いてあったんですよね、“趣味:絵画”って」
星野さん「そこをしっかり見てくださったんだなと、採用していただけたのがすごく嬉しくて。前作の『キリトル』を観たときも非常に感動したのですが、この作品を観終わったときにも感じるものがいろいろあって、それが何かって言うと正直まだ分からない。まるで哲学のように自問自答しているかに思える作品です。主役のお二人にはお芝居というよりも人間性のような心と身体に沁みわたるものを見せていただきました。人の醜さとか温かさ、心の深さとかいろんなものを感じると思います。それを皆さんに今日体感していただけたらと思います」

星野あかりさん

潟山セイキさんは、舞台挨拶の登壇者の名前を見て、キャストにいたっけ?と思ってしまった人。それもそのはず、声だけの出演なのです。とても落ち着いたトーンでの話しぶりを聴いてキャスティングにも納得でしたが、素敵な方なのでちょっともったいないなとも。
潟山さん「いくつかの資料の中から僕の声を気に入っていただいて、今回は留守番電話の声だけの出演でしたが、次回作では姿形も出てくると思います(笑)。……この映画を観た後で考えたんですけど、面白い映画っていうのは、おカネがかかっているとかアクションだとか3Dだとか感動できるとか、いろいろあると思うんですよ。でも心に残る映画って何だろうと。そういうのが自分にとってのいちばん面白い映画なんじゃないのかな。この映画はまさにそんな映画なんです。莫大なおカネをかけているわけではないし、3Dも当然出てこない。でも先ほど星野さんもおっしゃったように、終わった後『ん?』と考える。心に残る映画だったなというのが正直な感想です。楽しんでください」
痺れる発言が続く中、映画でも存在感を光らせるモーサム・トーンベンダーの百々和宏さんが舞台挨拶の最後を飾ります。
百々さん「普段僕は音楽を生業にしておりますので、俳優業なんてやる予定はなかったんですけど、情監督からオファーをいただきまして。まあ会って顔を見てから決めようと軽い気持ちで会ってみたんですけど、なんかミステリアスな感じなんですよね。何考えてるかよく分からない。で、『ちょっと面白いかもな』と思って、ちょうどタイミングもよかったので出させていただきますということで。台本をもらって、『セリフあるやんか』と驚いて。でも監督の言うとおりにしておけば、演技下手くそとか言われても監督のせいにできると思っていたら、監督があまり演技の要求をしないんですよね。『普段通りの感じでやってくれ』とか言われて、カメラが回ってるわスタッフがいるわ、っていうところでできるわけがないだろう!と。そんな中でやってみました」

百々和宏さん

や〜、こんなロックンローラーにそうそう型にはまった演技なんて付けられないよなぁ、と思いながら聞いとりました。田中監督は「今回出演者はみんなリハーサルやっているんですけど、その中で百々さんがいちばん心配でしたね(笑)」と。
百々さん「いやいや本当にヤバかったですね。でも映画の方はいいですよ。なんか、クールでドライで、ドライで渇き切っているのに、なんだろう?このドロドロした感じ。俺はそんなに映画好きとも言えないんですけど、あとにしこりが残るぐらいの映画の方が面白いなと思っていて、まさにそんな映画だなあと。と思っていたところ、ちょっと謎が解けた瞬間がありまして。情監督と撮影が終わった後飲みに行ったんですが、酔っ払った監督を見て、ああドロドロしてるなあ、と。……まあ早い話が酷い酔い方をするんですよ(笑)。ああ、いろいろ隠してるものがあるんだなあと。そういうところが出てると思いますんで、みなさん楽しんでください」

田中情監督、星野あかりさん、潟山セイキさん、百々和宏さん

短いながらもキャストそれぞれの『シンクロニシティ』観が繰り広げられた初日舞台挨拶でした。みなさん本当に真剣に映画に取り組んだことが伝わってきて、田中監督はキャラクターだとか話題性だとかでキャストを選んでいるのではなく、彼らの魂の美しさを買って連れてきたんだなと感じたのでした。
本当に心に残る作品になっていますし、感じ方は人それぞれだなともみなさんのお話を聴いて実感しました。ぜひ観てほしいし、観た後は誰かと話し合ってほしいなと思います。


★and more……★
・『シンクロニシティ』上映後トークライヴが下記スケジュールで開催されます。全て、19時の回終了後に行います。
トークライブ時は短編『蝶と女と鴉と男』は上映は行いません。御了承ください。
6/13(月) 金子遊(映像作家)×田中情
6/15(水) 叶井俊太郎(プロデューサー)×田中情
6/17(金) 狗飼恭子(作家)×田中情
6/20(月) 諸江亮(映画監督)×田中情 ※本編上映前に諸江亮監督作品『tsumu-gi』特別上映あり。
6/22(水) タナカカツキ(マンガ家)×田中情
6/24(金) 百々和宏(ミュージシャン/MO'SOME TONEBENDER)×金子英史(トーキョーマガジン編集長)×田中情
6/27(月) 倉田真由美(漫画家)×田中情
6/29(水) 富澤タク(グループ魂 a.k.a 遅刻,Number the.)×田中情
6/30(木) 松江哲明(映画監督)×田中情
7/1(金) 宮本一粋(アーティスト)×田中情


・サラヴァ東京にて行われる「新世代監督・傑作短編上映イベント」に田中監督も参加。『蝶と女と鴉と男』が上映されます。
6/23(木) 19:00開場 19:30開演 23:00終了予定
前売・当日 1800円(+1drink order)
話題の映画監督たちの短編作品を一挙上映。全監督出演のトークイベントもあり。サラヴァ東京ならではの異色の顔合わせが実現!
出演監督: 前田弘二(「婚前特急」),卜部敦史(「scope」),田中情(「シンクロニシティ」),ドキドキクラブ(元マッドシティー),佐々木誠(「Fragment」)


・INTROに私が取材した田中監督インタビューが掲載されています。異色の経歴や『シンクロニシティ』のテーマ、映画作りに対するの率直な想いも語っていただきました。ぜひお読みください。
INTRO|田中情 (映画監督)インタビュー:映画『シンクロニシティ』について【1/2】【2/2】



シンクロニシティ』 2011年/日本/カラー/99分/ステレオ/HD
企画・製作・監督・脚本・編集・監督:田中情
出演:小林且弥 宮本一粋 百々和宏 田渕ひさ子 富澤タク りりィ 高木三四郎 星野あかり 橋本一郎 松田百香
公式サイト
2011年6月11日(土)より渋谷UPLINK Xにてロードショー